第十八話 オレのやり方
土日明けの月曜日。オレはすーちゃん先生に無理を言って再び大学へと連れて行ってもらった。
「またしてもお時間を作っていただきありがとうございます」
「いえいえ……」
そう言う大学生たちの顔には明らかな呆れが見て取れた。
また何かあったら一緒にとは言ったがそれを社交辞令と受け取らず、ましてや数日後に来られてもという迷惑だと口では言わずとも表情が雄弁に語っている。
まあ、数日前に念入りに用意してきた案があれだったのだからそれから数日で持ってきた話に期待がないのは当たり前なんだが。
それでもオレは自信のある様子を崩さず、休日返上で作ったレジュメを会議室にいる全員に配った。
「今回私が考えたクリスマス会に案なんですが、皆さんは毎年市役所の横の広場で行われているクリスマスマーケットご存じでしょうか? そのクリスマスマーケットなんですが実は近年とある問題で困っているようなんです」
「ほう、その問題というのは? 」
意外にも一番に食いついてきたのは大学側の先生だった。
「参加者減少によるクリスマスマーケットの過疎化。それに伴い出店するお店が年々減っており、このままだとクリスマスマーケットは存続不可能になってしまうという問題です」
「なるほど……それで君はどうしようというのかね? 」
「我々も一つお店を出します」
「…………」
大学生たちはもちろん、先生までもが目から光を消し、黙り込む。完全に見限られたことを空気で感じ取る。けれど、オレのプレゼンはまだ終わっていない。
「お店と言っても我々が提供するものは食品や雑貨ではなくエンターテインメントです」
「エンタメねぇ……」
「エンタメといってもただのエンタメではありません。エンタメであり、商売――皆さん、我々が今回、一般のお店と最も異なる点は何か分かりますか? 」
「それはあれかい?
「いいえ、違います。我々が他のお店と違う最も異なる点それは売り上げを視野に入れてない点です」
そう、我々は儲けを出すためにお店を出す訳じゃない。なんなら元々無料参加のクリスマスイベントを行おうとしていたぐらいだ。採算度外視だからできることそれは……
「我々が行うのは参加者全員に賞があるビンゴ大会です」
――――!!
一同、目を見開き曲がっていた背筋をピンと伸ばす。
「参加者全員って……どれだけのお金がかかると思っているんだ」
「費用の前に今回の企画の説明をさせてください」
今回の企画のレジュメを配るとみんなそれぞれ一通り目を通す。
「今回の我々の目的それはクリスマスイベントとクリスマスマーケットを盛り上げることと若い学生世代のクリスマスマーケット参加者を増加させることです。そのために今回は参加費百円、そして参加賞はこのクリスマスマーケットで使える百円分の商品券とし、お客様に損ないように。それに加え、我が校の生徒と貴校の生徒さんはイベントへの参加を無料ということにしようと思っております」
「全員に還元率100%に加え、我が校と
「待ってください先生! 」
思わぬことに参加を拒否した大学の先生に待ったをかけたのは先程まで先生と一緒に呆れ顔をしていた大学生たちだった。
「結論を出すのは話を最後まで聞いてからでも遅くはないかと」
「私だってね、ここが地元でクリスマスマーケットにはたくさん思い出がある。できればクリスマスマーケットの存続のために協力したい。けれど成功の見込みの薄い企画に大学のお金を使うことはできない。それにそのお金は元々君たち生徒からもらっているものだ、君たちも自分たちのお金をドブには捨てたくないだろ」
「それは……」
さて、そろそろオレの出番かな――
「あの、そろそろ続きを話してもよろしいでしょうか? 」
「あのねぇ……今の私たちの話を聞いてなかったのかね? 今回の企画に
「結論を出すのは話を最後まで聞いてからでも遅くないともおっしゃってましたよね? 」
「むっ――」
「というわけでレジュメの一番最後のページをご覧下さい」
そこに書かれているのは今回の企画の予算見積だ。
「まず今回の企画のシュミレーション支出の方をご覧下さい。これは今回のイベントの参加人数を仮定し、算出された支出額で仮に今回の企みが大成功した場合の支出がこれになっております」
もし、今回のクリスマスイベントに無料参加の権利を持った生徒が半数が参加し、それに加え一般の方が百人参加した場合の支出額。
大学の生徒は全部で約千人。高校の生徒は全部で約六百人。仮に計千六百人の半数――八百人が参加し、さらに一般のお客さんが百人参加した場合の合計の参加人数は九百人。そして九百人と仮定した場合の最低支出額は無料参加してる生徒分だけの八万円。
「仮にビンゴによる商品獲得者を百人に設定した場合でも支出額はぴったり十万円になります。これは昨年、我々が実施しましたクリスマスイベントの予算額――五万円を我が校と御校で出し合えば可能な金額となっております。同時にビンゴ者が現れ多少商品獲得者の人数が前後することはあるでしょうが、そもそもこれは無料参加者が半数も来た場合の仮定での商品獲得者数になってますので参加人数次第では予算ギリギリまでビンゴを続けようと考えております」
「ふむ……つまりそちらの要望は
「いえ、支援ではありません。あくまでもこれは共にやりませんかという提案です」
「では仮に我々がその提案を受けたとして我々にはどんなメリットがあるのかね? それに必要な予算は景品代だけではない。場所代や人件費はどうする? 」
「まずこの企画に参加した場合のメリットですが現状すぐになにかが手に入るわけではありません」
「ほう……メリットがない」
「
「地域に貢献――大きなチャンス――」
「それこそ今回のクリスマスイベントでは大した成果を得られずとも今後こういう地域でなにかイベントをやるときに声がかかるかも知れない。そう、これは未来への投資でもあるんです」
「未来への投資――」
「それと場所代と人件費ですが場所代に関してはクリスマスマーケットを開催する公園の隣の市役所に問い合わせたところ営業後の五時半からならエントランスを使用してもいいと許可をいただきました。エントランスの装飾もクリスマスが近いからそのままにしてよいと」
「そんなところまで」
「それと人件費なんですがこれは主にこちらの生徒と職員で何とかしようと考えているのですが、出来ればそちらの学生さんも何名かお借りしたいのですが……」
「それなら俺の連れを連れて行こう」
「こら! 勝手に話を進めるんじゃない! 」
「でも先生もかなり心惹かれているように見受けられます」
「こんな企画我々だけでできるものじゃない。そもそも商品券は本当に使えるのか? 」
「はい、すでに現在クリスマスマーケットに出店予定のお店には事情を話し、了承を得ています」
「むむむ……」
そろそろ決め時かな――
「いかがでしょうか。是非共にこのクリスマスイベントを開催しませんか!? 」
「むむむむむ……わか、た」
(よし! )
「では明日にでもさらに詳しい資料を持って来させていただきます。本日はお時間を作っていただきありがとうございました」
1
会議室を出て青空を見上げると、どっとここ数日の疲れが押し寄せてきた。
(疲れている暇なんてないぞ。ここからさらに忙しくなるんだから)
オレが改めて気持ちを入れていると後ろから「おーい」と声が聞こえ振り返る。
「お疲れお疲れ! 」
「あっ――お疲れ様です……えーと……」
駆け寄ってきたのは大学のたこ焼きの人――えっと名前は……。
「「…………」」
オレの微妙な返事のせいで二人の間には気まずい空気が流れる。
「そーいえば結構関わってるはずなのに自己紹介したことなかったね。俺の名前は
「私は天国と申します」
「知ってる――」
あはは、という軽い笑い声の後、手洗さんはゴホンと空気を正す。
「正直驚いた」
端的で素直な感想に一瞬なんだと驚いたがすぐに手洗さんの顔が笑顔に変わり安堵した。
「いやあー正直今日来たときは『おいおいまじか、だるいってー』って思ったけど度肝抜かされたわ」
「あ、ありがとうございます……」
(そんな素直に言うやつおる!? )
「実は先週来たときは前の会長さんが凄かったのもあって『なんだ、この程度か』って。まあ普通に考えたら高校生の生徒会になに期待してんだって話だけど」
きっと前までのオレならへこんでいただろう。けれど今のオレは――
「確かに私は会長――前会長の七星には何もかも敵いませんが、会長としての正解は一つじゃない。私は私の理想の会長になります」
「ほう……おう、応援してる」
オレと手洗さんは固い握手を交わし、オレは大学を後にした。
2
それからクリスマスイベント当日までは怒涛の日々だった。企画の調整、広告や生徒会だより(校内新聞)を作っての告知。それに商品券の作成や市役所の飾り付けなど。到底、生徒会だけでは捌ききれない仕事量だったが大学との連携でギリギリ準備が間に合い、イベント当日を迎えることができた。
そしてクリスマスイベントのビンゴには生徒の半数とまではいかないが三分の一ほどの五百人と地元の子供や中学生が参加し、市役所のエントランスを埋め尽くすほどの盛り上がりを見せた。
その中には昨年のクリスマスイベントで泣いていた子らもおり、楽しそうに母親をビンゴをしていた。
ビンゴが終わりお客がはけてからオレたちは後片付けをしていたため、後日聞いたことだが今回のクリスマスマーケットは全盛期にも引けを取らない大盛況だったらしく、これならと、無事クリスマスマーケットを存続することができたらしい。
「ふう……これで二学期の生徒会の大きな仕事は終わりか――」
生徒会長になっての初めての大仕事。色々大変だったけどそれが自分の身になったことをひしひしと感じる。
明日はちょうど終業式。もう少しすれば今年が終わる。冬の寒い夜道の中、オレの心には二つの熱い想いがメラメラと燃えていた。
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