第三章(1) 最有力の情報源
粗方、情報収集は出来ただろう。
リアナは屋敷を一周しチェックしそびれた花がないかを確認し終えると、再び大広間へ向かった。向かいながら、「見た」ものを脳内で整理する。
「見る」ことに成功した人物は、調律師のハーバート、住み込みメイドのオルガ、次女サブリナ、住み込みメイド長のシルヴィア、長女フランチェスカ、三男アランの6名。死亡した次男マソリーノを除いてこの屋敷に住んでいるのは12名だから、とりあえず半分はチェックしたことになる。と言っても、その人にとっての印象的な出来事なんて時が経てば変わってしまうものなので、今後も接触するチャンスは狙っていかねばならないが。
「オリアナさん」
「…あ、シルヴィアさん」
落ち着いた女性の声で呼び止められ振り返ると、1時間ぶりのメイド長が近づいてきていた。
「一度お部屋にご案内しなければと思って」
そうだ、うっかり準備された部屋が何処なのか知っているせいでそのまま行ってしまうところだったが、部屋の場所も隣がノアだということも、シルヴィアの中の『オリアナ』は知らない。
「ありがとうございます、何から何まで」
「いえいえ、それがわたくしの仕事ですから。それより花飾は大丈夫そうかしら」
「はい、全て拝見しましたけど、どれも素敵な誂えでしたよ。どの花屋の支度なのか知りたいくらい」
「ああ…ごめんなさいね、ランダムだからわたくしもはっきりとは把握していなくって」
会話がとてもスムーズで、もうシルヴィアが完全にオリアナを信頼したということがわかる。もう少し情報を引き出せそうだ。
リアナはさりげなく大広間へ向かって歩き出しながら、会話を続ける。
「明日の祝典が終わったあと、どの花屋も片付けにまた来るんですよね?」
シルヴィアもつられて歩き出した。
脳内では別々のことを思考出来ないので、質問に回答するという思考をさせることで行動を操作することも出来てしまったりするのだ。
「ほぼ、そうね。でも明日夜が難しくて明後日の朝に来る業者もいるわ、数人だけれど」
「そうなんですね、では会えない方もいるのか…」
引き続き熱心なところをアピールすると、シルヴィアがくすりと笑った。
「本当にオリアナさんは花のことがお好きなのね。素晴らしいことだわ」
「そんな滅相もないです、まだまだ若輩者なので勉強したいなって思っているだけです」
「そんなに気になるのなら、依頼した花屋のリストをあとでお持ちするわね」
さらりと言われたその台詞に、リアナは内心でガッツポーズをとった。きた、大きな情報である。出来ればついでに他の業者リストも手に入れたいが、今の段階ではまだ難しそうだ。
「本当ですか!とっても嬉しいです!」
大袈裟に喜んでみせるとシルヴィアも得意げである。
「たぶんどこかに割り振りを決めた時の書類もあるとは思うから、もし見つけたらお見せするわね」
よし、ここまで懐柔出来れば、やりようによっては今後もっと情報を引き出せるだろう。
大きな成果を得たところで2人は大広間にたどり着いた。
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