5-27 グレゴールの時計
な、何…?この空間は…?上か下かも分らない空中に私は浮かんでいた。しかも目の前には私の背丈ほどもある巨大な金色に輝く時計が浮かんでいる。
「何…?この時計は…?ここは一体…?」
金色の時計からはずっと音が鳴っている。
ゴーン
ゴーン
ゴーン…
いつも私が死を迎える直前に頭の中で鳴り響いていたあの鐘の音色。なのに今はそれを少しも怖いと感じない。むしろ…懐かしいような、心地よいような…そんな音色だった。
「一体この時計は何なの…?」
私は時計に近付き、そっと触れてみた。すると途端に頭の中に声が響き渡って来る。
<やっと自分の意思で(力)に目覚めたのね?シルビア…>
その声は…聞覚えがある。まさか…!
「お、お母様…?お母様なのっ?!」
すると再び声が聞こえて来た。
<シルビア…可愛い私の娘。貴女とまた会話が出来て本当に嬉しいわ>
「お母様、私も…」
思わず涙ぐんでしまった。けれど、すぐに我に返った。
「お母様、一体ここはどこなのですか?それに目の前のこの時計は一体何なのですか?」
<ここは時が止まった空間…。そして目の前にある巨大な時計は『グレゴールの時計。』私達一族が持つ力の象徴が具現化したものよ>
「『グレゴールの時計』…?」
<この時計の力を使えば自由自在に時を操る事が出来るの。だけど…もう殆どこの力は尽きかけているわ…私が貴女の為に使ってしまったから…>
「え…?私の為に…?」
<時を操る力を持つものは先見の力も持っているわ。私は貴女が殺されるのを知っていたのよ。あの魔女、ジュリエッタによって。彼女に操られた人物に貴女が殺されるのを知っていたから…万一貴女の寿命が尽きた時、ある一定の時間に戻れるように力を使ったの。でもその代償は大きくて…>
「ま、まさか…私の為に…お母様は…?」
私の目に涙が溢れて来た。そんな…私のせいでお母様は…。
<まさか貴女が何度も何度も殺されることになるとは思わなかったわ。ループする度に状況が変化しているので、今度こそは大丈夫だろうと何度思った事か…それなのに…。この時計もとうとう1週回って力を使い切ってしまったはずなのに…>
そこで一度声が途切れ、再びお母様の声が聞こえ始めて来た。
<でも、シルビア…貴女はついに自分の力を発動させた。今なら自由に時間を操る事が出来るはずよ?でもこの時計はもう壊れる寸前。ループ出来るのは1度きり。あまり時間軸も空けられないわ。さぁ…いつの時間に戻りたいのか願いなさい>
「お母様、それならもう答えは出ているわ。私が戻りたい時間は―」
そして念じた。
<そう…それがシルビアの戻りたい時間ね…?>
「はい!」
すると―。
ゴーン
ゴーン
ゴーン…
ますます鐘の音が大きくなり、目の前の巨大時計に大きな亀裂が走り始めた。
ピシッ
ピシピシピシ…ッ!!
そしてついに…。
バリーンッ!!
大きな音を立てて『グレゴールの時計』が粉々に砕けると同時に、私のいた空間にも巨大な亀裂が入っていく。
「キャアアアッ!!」
思わず叫び、目を閉じた瞬間―。
私は自分の周りの空気が変化したことを感じた。
え…?この空気は…?
そして目を開けると、そこには愛しいユベールがジュリエッタから私をかばうように背を向けて立っていた。
ユベールだ。ユベールが生きていた…私、時間を戻れたんだ…。思わず目じりに涙が浮かんだ時―。
「ユベール…この私に剣を向けると言うのね?」
あ!あの台詞は…っ!
「ああ、そうだ。俺はお前になど微塵の興味も無い。ただ…シルビアを脅かすような存在は容赦するものかっ!」
ユベールが叫ぶ。いけない!この後にユベールは…っ!
気づけば身体が勝手に動いてユベールの前に飛び出していた。
「何をしている、危ないから下がっていろっ!」
背後でユベールの焦り声が聞こえてくる。でも駄目。あの獲物は私が殺る。何故ならジュリエッタは、色々な人達を操って私を12回も殺して来たから。それだけじゃない。私の愛する貴方の命までも奪った。絶対に許さない。
「お、お前‥‥っ!ち、力に目覚めたのっ?!」
ジュリエッタが焦りを見せている。
「し、シルビア…い、一体何がお前の身に起こったんだ…?」
ユベールの呆然とした声が背後から聞こえ、その時に気付いた。私の身体が金色に輝いている事を―。
「グ…っ!やっかいな!」
ジュリエッタが私に手を差し出した瞬間―。
「この世界から消えなさいよっ!ジュリエッタ!!」
そして私の力が発動した―。
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