5−13 脅迫

 眩しい朝日が顔に当たり、再び私は目が覚めた。そして気が付いた。私の隣に眠っていたはずのユベールの姿が消えていた。


「やっぱり…帰ったんだ…」


そして何故ユベールが私の部屋にやってきたのか理解した。部屋にあるテーブルの上にはお皿の上にフルーツが乗っていたのだ。それにあれほどの寒気も消えている。


「きっと寒がっている私を温めてくれたんだ…」


そして私の熱が下がったのを確認して自分の部屋に戻ったに違いない。

ベッドから降りると、クローゼットに向かい着替えを始めた―。




 着替えを終え、テーブルに向かって朝食代わりにフルーツを食べていると部屋の扉がノックされた。


コンコン


「シルビア様。お目覚めでしょうか?中へ入ってもよろしいでしょうか?」


それはメイドのリンの声だった。


「ええ、起きてるわ」


声をかけるとカチャリとドアが開かれ、トレーを持ったリンが部屋の中に入ってきた。


「まぁ!シルビア様、もうお召になっていたのですか?今朝食をお持ちしたのですが。それで具合の方はいかがですか?」


トレーの上にはスープとミルク粥が乗っていた。


「もう体調はすっかり良くなったわ。今日は魔石探しに参加するわ。お料理持ってきてくれてありがとう、それも頂くわ。何も食べないで眠ってしまったからお腹がすいてしまって」


「ではこちらに置いておきますね」


リンはテーブルの上に料理が乗ったトレーを乗せてくれた。


「ええ、ありがとう」


「それでは失礼致します」


リンは頭を下げると部屋から出て行った。そして私はまだ湯気の立つ温かい料理に手を伸ばした―。




 朝食を食べ終えた後、私は考えた。キリアンが亡くなった今、私1人では到底魔石探しは無理である。1人では魔石を手に取ることも出来ないし、その上仮に魔石を奪いに現れた人物が襲ってきたらひとたまりも無い。


「やっぱり、町に行って傭兵を雇わないと…女性を雇えば安心よね?」


自分に言い聞かせるように言い、椅子から立ち上がると出かける準備を始めた―。



 朝9時―



ゴーン

ゴーン

ゴーン


 魔石探しの時間になった。上着を着こむと私は部屋を後にした。



エントランスを出て、城の外へ出た途端背後でシュッと音が聞こえた。


ビシッ!!


何と目の前の大木に弓矢が刺さったのだ。


「え…っ?!」


余りの突然の出来事に腰が抜けてその場に座り込んでしまった。そ、そんな…私、今狙われた…?


ザッ

ザッ

ザッ


背後で足音が近付いてくる。そして声を掛けられた。


「さぁ、死にたくなければ魔石を渡すんだ」


ドスの効いた男の声が聞こえた。震えながら振り向くと、そこには大柄な傭兵が立っていた。


「あ、ありません…」


私は震えながらも何とか答える。



「はあっ?!俺はなぁ、雇い主から聞いてんだよっ!お前が魔石の在り処を探す能力があるってなっ!相当集まっているんだろうっ?!さっさと寄こせ!」


男はスラリと剣を抜くと、喉元に剣を突きつけた。怖いけど…持っていないものはどうしようもない。それに私はもう12回も死んでいるのだ。いざとなれば覚悟は出来ている。


「ほ、本当に持っていないんですっ!私のパートナーの騎士の方に渡していたんです!で、でもその方は昨日殺されて…その時に魔石も奪われてしまって、私は1つも持っていないんですっ!…うっ!」


喉に鋭い痛みが走った。そして生暖かい血が喉から滴るのを感じた。


「そんな話を信じると思っているのか?今のは薄く皮膚裂いただけだが…次はそうはいかないぞ?」


「そ、そんな事言われても…あうっ!!」


男が剣を振るった途端、今度は左腕に鋭い痛みが走った。今度は左腕を切られたのだ。ぶ厚いコートがすっぱり切られ、そこから血がにじみ出ている。


「うぅ・・・」


腕を押さえつけ、何とか痛みに耐える。


「ほんの少し剣がかすっただけだ。大した傷じゃない」


その時…。


「もうその位にしておきなさい。後は私が魔石を持っていないか調べるから」


扉の奥から現れたのは見覚えのある令嬢だった。そして私に近付いてくる。


「や、やめて…来ないで…」


逃げようにも腰が抜けて動けない。


「そうはいかないわ。これから魔石を隠し持っていないか探さなくちゃいけないんだから!さぁ、早くコートを脱ぎなさいっ!」


「わ、分かったわ…」


傷口の痛みに耐え、何とか上着を脱ぐと乱暴に奪われた。令嬢は奪ったコートをガサゴソあさり、つまらなそうにため息を付いた。


「その服にはポケットは無さそうね…まさか本当に持ってないの?」


「だから…そう言ったでしょう…?」


「フン!」


その令嬢はつまらなそうに私にコートを投げて寄越すと男に言った。


「行きましょう。時間の無駄だったわ」


そして地面に座り込んでいる私を残して、その場を去って行った―。










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