5−9 彼女達の追及

 その後、2時間程救護室で休んでいた私はベッドから起き上がった。もう頭のふらつきも無くなったし、体調も良くなっていた。


「部屋に戻ろう…」


足元に置いてある自分の靴を履くと、私は救護室を出た。そして自室へ向かって歩いていると不意に背後から声を掛けられた。


「あら?シルビア様じゃありませんか?」


その声に振り向くと、そこに立っていたのはイメルダ達のグループだった。背後にはマグダレナとロシータもいる。


「あ…イメルダ様」


どうしてこんなところにいるのだろう?まだ魔石探しの時間の真っ最中なのに。


「災難でしたわね?ユベール様の後を追って地下牢へ行き、一緒に捕まってしまったんですってね?」


対して心の籠もってない言い方でロシータが言う。


「はい、そうですね」


「何でもユベール様がキリアンという騎士の殺害容疑で投獄されたんですってね?」


マグダレナは意味深な顔で尋ねてきた。


「ええ。確かにそうですけど…ユベール様ではありませんよ」


私はフイと視線をそらせた。


「ふ〜ん…ところでシルビア様。キリアンという騎士はどのような殺され方をしたかご存知ですか?」


イメルダが尋ねて来た。


「…さぁ。私には分かりません」


今だってキリアンが殺されたと言われても信じられない。何しろ私は彼の遺体すらみていないのだから。


「彼は自分の部屋のベッドの上で剣で胸を貫かれて殺されていたそうです。ベッドにはキリアンの血をたっぷり吸って…真っ赤に染まっていたと言う事でした。それに彼は当時、女性と一緒にいたようですね?その女性はベッドから離れた床の上でうつ伏せで倒れていたそうですが、相手に背を切られて血まみれになって床の上で事切れていたと言う事です」


「…」


淡々と語るイメルダに私は驚きのあまり言葉を失っていた。どうして彼女はこんな残酷な話を平然と語っているのだろう。12回も「死」を繰り返してきた私には「死ぬ」という事がどれだけ苦しいものか良く分かっている。


「シルビア様じゃありませんよね」


「はい?」


イメルダの言葉に耳を疑う。


「キリアンを殺したのは…シルビア様ではありませんよね?」


イメルダは私に一歩近付くと尋ねてきた。


「何故私がキリアン様を殺した犯人になるのですか?」


冷静に尋ねた。私はひょっとすると容疑者として名前が上がっているのだろうか?


「そんなの決まってるじゃないですか。嫉妬ですよ」


マグダレナが鼻で笑うかのように言う。


「嫉妬?私がキリアン様に?何故ですか?」


「まぁ、とぼけるのが上手ね。キリアンが女性と夜を共にしたからですよ」


ロシータが私を見た。


「それが何か?私には関係ない事です」


キリアンは私の恋人でも無ければ、好意を寄せている相手でもない。なので彼がどこの女性と関係を持とうが、興味は無かった。


「随分とぼけるのがお上手ですね?」


マグダレナの声には棘があった。


「とぼけるも何…も彼に恋人がいようがいまいが、全く興味はありません。第一…」


私は3人に向き直ると言った。


「キリアン様は仮にも優秀な騎士です。そんな人物を相手に…いくら眠っていても私が剣で彼を殺せると思いますか?」


「「「・・・」」」


マグダレナとロシータは何か言いたげな瞳で私を見ている。一方、イメルダは1人余裕のある顔をしている。もうこれ以上こんな茶番劇に付き合っていられない。


「それでは失礼します」


頭を下げて、彼女たちに背を向けるとイメルダが呼び止めた。


「お待ちになって。シルビア様」


「・・・・まだ何か?」


これ以上何があると言うのだろう?


「私、肝心な事を話していませんでしたわ。キリアンの死因の一つが毒蛇に噛まれたことが要因だったそうですよ?」


「え…毒蛇…?」


私は自分の顔が青ざめるのを感じた―。






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