4-11 キリアンの提案
「え、ええ。見ておりました」
まさか私が見ていた相手がキリアンだとは思わなかった。
「どうだった?」
キリアンはワクワクしているような目で私を見下ろしている。
「はい、とてもお強いのだなと思いました」
正直な感想を述べた。
「そうか、そう言って貰えると光栄だ。ところでシルビアはもう知っているか?アンリ王子とジュリエッタが旅行に行くのでユベールが護衛騎士としてついていく話を。しかもお忍びで行くらしいから護衛はユベールだけなんだ。でもあいつは本当に強いからな。1人でだってやってのけるだろう」
「はい。知っています」
「そうか…」
その後キリアンは何故か頭を掻きながら、何かを迷う様な素振りをしている。
「どうかされましたか?」
「あ、いや…」
キリアンはキョロキョロ辺りを見渡したので、私もつられて辺りを見ると、訓練していた騎士たちの姿が1人も見えない。休憩でもしているのだろうか?
「ここだけの話にしておいてくれよ」
キリアンは私達の周囲に人がいないことを確認すると言った。
「それにしても…アンリ王子はつくづく人が悪いと思わないか?」
「う…そ、そんな事私に同意を求められても…」
「あ…そうだよな。シルビアに応えられるはずないか…だってアンリ王子の婚約者を選ぶためにここにいるんだからな」
「はい…」
「シルビアはもう知っているんだろう?アンリ王子の恋人がジュリエッタだと言うこを」
「はい」
「全く…恋人がいるのに、けっして結婚する事が許されない。だからこそアンリ王子は歪んでしまったのかもしれないな。だからシルビアの魔石探しに付き合っている最中のユベールに旅行の護衛騎士に任命したんだろうな。ユベールがジュリエッタの事を好きなのを知っているから」
「そう…なんですね」
ユベールがジュリエッタの事を好きなのは分り切っているけれど、こうやって第三者の口から聞かされるのは堪える。
「ユベールも辛いだろうな…恋する女が別の男の恋人として、仲良さげにしている所をずっと目の当たりにしていなければならないのだから」
「ええ、そうですね…アンリ王子は身を引いて…ユベールとジュリエッタさんが結ばれるのが一番なのに…」
本当に気の毒なユベール。本来であれば、アンリ王子とジュリエッタは結ばれることは無いのだから、2人は別れて、ユベールとジュリエッタが恋人同士になれるのが一番丸く収まるのに…。
「シルビア…君って本当にいい人なんだな」
キリアンが突然私の右手を取ると手の甲にキスしてきた。
「な、何するんですか?」
慌てて手を引っ込めるとキリアンは笑いながら言った。
「いや。シルビアが可愛らしいからついね」
「あ、ありがとうございます。それでは私、用事がありますので」
頭を下げて、立ち去ろうとすると突然右手首を掴まれた。
「待って。シルビア。君に聞きたい事があるんだよ」
「な、何ですか?」
「ユベールがいなくなったら君は明日から魔石探しはどうするんだ?まさか…やめるつもりなのかい?」
「いいえ。やめません。その為に今から町へ行くので…手を離して頂けませんか?」
しかし、キリアンは手を離さない。
「町へ行くって…何をするつもりだ?」
「お金を払って腕の立つ男性の傭兵を雇うつもりなんですけど?」
「な、何だって?!それは絶対にダメだ!いいか。女性が男の傭兵を雇えると思っているのか?」
「え?雇えないのですか?」
もしかして雇える基準でもあるのだろうか?しかし、それは予想外の内容だった。
「いいか?金で雇われている男の傭兵なんてろくな者なじゃないからな?若い女性が雇い主なら、まず真っ先に襲われるぞ?」
「え…?」
その言葉に私は血の気が引いた。そ、そんな…。それじゃ私は傭兵を雇えないの…?
するとキリアンが言った。
「シルビア、俺を仲間にしてくれよ。俺はユベール程ではないが、そこそこ強い。きっと役に立てると思うよ?」
「キリアン様…」
それは私に取って願ってもいない話だった―。
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