2−10 ゲーム開始
「ああ、君はシルビア・ルグラン嬢だね?君の質問は何かな?」
よりにもよってアンリ王子は私の名前をフルネームで呼んだ。この事で周囲の令嬢たちから私は嫉妬の目を向けられた。彼女たちは目でこう言っていた。
どうして貴女ごときの令嬢がアンリ王子に名前を覚えてもらっているのだ?と―
しかし、これくらいで怯んではいられない。ここにいる令嬢たちは皆王子の婚約者になりたくてたまらない者たちばかりなのだ。でも、だからこそ私は尚更アンリ王子に目を付けられてしまったのかもしれない。
「あの、私の質問は仮に魔石を発見した時についてです。魔石からは魔力が発せられています。その魔力に当てられてしまう人たちも…中にはいると思うのです。なので集めた魔石から魔力を封じ込める為の入れ物のような物を頂きたいのですが…」
すると途端に周囲の令嬢たちがざわめいた。そのざわめきこそが、彼女たちが魔石の魔力を感じ取ることが出来ない事を雄弁に物語っている。ほんの僅かな令嬢たちを除いては…。
「ああ、そうだね。中には魔石の魔力に耐えられないと言う令嬢たちもいるかもしれないからね。いいだろう、今すぐに用意させるよ」
そしてアンリ王子がサッと手を上げると、1人のメイドがアンリ王子の前にワゴンを押して現れた。
「では、君たち全員に僕からこの布の袋をプレゼントするよ。これに魔石を入れれば魔力は遮断されるからね。皆、取りに来てくれるかい?」
すると、それぞれのグループから代表者が布の袋を取りに行く。私も取りに行こうと前に進み出ようとした時、ユベールが言った。
「俺が取りに行く。お前はここにいろ」
「え?ええ…」
返事をするとユベールはそのまま前に進み出てワゴンの上から布袋を手に取ると私のところへ戻ってきた。
「どうもありがとうございます、ユベール様」
「別に礼を言うほどではない。この袋をもっているのは俺だからな。だから俺が取りに行くのは正論だろう?」
なるほど、そういう考えでユベールは自ら袋を取りに行ったのか。その直後、再びアンリ王子が口を開いた。
「全員に袋が行き渡ったようだね?ではこれより君たちに魔石探しのゲームを始めてもらうよ。とりあえず魔石が隠されている塔だけを教えるよ。魔石は今君たちがいる南塔と東塔に隠してある。屋上やテラスと言った危険な場所には隠していないからなね?あくまでも魔石の隠し場所は屋内だ。1日のゲーム開始時と終了時は鐘を鳴らすから、その音に従ってくれるかい?それでは…スタートだ!」
ボーン
ボーン
ボーン
鐘が鳴り響き、令嬢たちは皆ゾロゾロと部屋を出ていく。
「よし、俺たちも行くか」
ユベールが声を掛けてきた。
「はい」
そしてユベールの後に続いて部屋を出ようとした時にアンリ王子に呼び止められた。
「シルビア嬢」
「はい?」
「はっきり言ってしまえば、おそらく彼女たちは魔石を探すことは不可能だろう。僕は君に期待しているよ。だから…命を落とさないように気をつけるんだよ?」
最後の言葉は…私の背筋を凍らせた。まるで私がこの婚約者選びのテストで命を落とすのを知っているかのような口ぶりに聞こえてしまった。
「…」
思わず青ざめてうつむくと、背後からユベールが口を挟んできた。
「おい、アンリ。ゲーム開始早々に怖がらせるような事を言うな」
え?ユベール?
私は驚いて振り向いた。
「ああ、ごめん。今のはほんの冗談さ。忘れてくれよ」
「冗談でも言っていい事と悪いことがある。行くぞ」
そしてユベールは踵を返すと出口へ向かって歩き出す。私はアンリ王子に頭を下げると、慌ててユベールの後を追った―。
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