第3話 麓
猪が息絶えたことを確認して近づいてゆく。
そのまま、片手で軽々と猪を持ち上げ沢に向かい始める。
沢にたどり着くと慣れた手つきで解体し始める。
皮、肉、内臓と解体し、生物が食材へと変わっていく。
解体した肉を大きな葉にくるみ、内臓は地面に埋めて後処理を終える。
解体した肉を両手に抱えて山の奥へと向かう。
その歩く先に今の住処があるのだ。
川を飛び越え、大岩や木々を飛び移りながら住んでいくと見慣れた場所にたどり着く。
その場所は周りと比べ開けており、湧き水によって小さな沢が流れていた。
湧き水の少し離れた場所にはあばら家とすぐそばには小さな畑がある。
ここが今の住処であった。
200年という年月を生きていると、様々な要因でその土地を追われることがある。
その都度、気の向く方角へと行き、気に入ったところに住み着くのだ。
肉を下ろし、早速肉を調理しようと取り掛かかり始める。
生でも食えることには食えるのだが、料理というものを知ってからしっかりと調理するようにしていた。
ここ数十年ほど味噌鍋が気に入っており、それまでは手ぶらで移り住んでいたが、気に入ったときから鍋と味噌をもっていくほどだった。
火をおこし、山菜の処理をして肉を薄切りにして煮込もうとした瞬間にあることに気付く。
味噌樽の中身に味噌が入っていない。
味噌を切らしていたことをすっかり忘れており、頭を抱える。
しばらく呆然と味噌樽を眺めるが、何度見ても味噌が入っていることはなかった。
息を思いっ切り吸い込みゆっくりと吐き出す。
そうして、山の麓を見下ろす。
山の麓には街が広がっていた。
ここからでは距離があるせいか、家々が小さく見えた。
後ろを振り向き、食材と麓の街を交互に見る。
大きくため息をつきながらあばら家へと足を向ける
「いくか……」
一言つぶやき、荷物や外行きの服の準備に取り掛かる。
憂鬱な気持ちを抱えながら麓に降りる覚悟を固めるのだった。
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