元カノカルテット
遠野麻子
いきさつ。
「よっと……!」
俊は書架の一番上から分厚い書籍を取り出した。
ここは大学の図書室。俊の彼女、綾がレポートを書くための書籍探しの手伝いをしているのだ。
綾はかなり小柄で、書架の一番上にある本は取り出すことが難しい。
俊が綾と出会ったのも、この図書館だ。
懸命に背伸びをしても取り出せない綾を見かねて手助けし、はにかみながらお礼を言う彼女に一目ぼれをした。
とはいえ、その頃の俊には既に彼女がいた。
沙耶という彼女とは高校生からの付き合い。
ふたりは陸上部に所属していて、俊と同じくらいのすらっとした背の高さと凛とした後姿が美しいと俊は思った。
俊が告白する形でふたりは付き合い始め、同じ大学へと進んだのだ。
綾に出会ってから、俊はいつも彼女のことを考えるようになった。
沙耶と街を歩いているときも。沙耶を抱いているときも。
その一方で、綾との距離は少しずつ近づいていた。
住んでいるアパートへ向かうバスの路線が同じだったのだ。
混みあうバスの中、小柄ゆえに人に埋もれて苦しそうな彼女を助けたのが第二の出会い。
それからメールアドレスを交換するまではさほどの時間もかからなかった。
その後は毎日のように他愛のないメールを送りあっていた。
そんな俊の様子に気がつかないほど沙耶はニブくはなかった。メールを読んでいる俊を訝しげな顔でみるようになるのは、綾とのメール交換が始まって3日目。
「ねえ、最近よくメールしてる子がいるみたいだけど、誰なの?」
そう聞いてきたのは1週間目だった。
「いや、直樹だよ。あいつ、彼女ができたっていって報告してくるんだぜ」
俊は笑いながらそういったものの、目は笑えていなかったと自覚していた。
2週間目には綾と映画を観にいった。
そしてその帰り、立ち寄った喫茶店で想いを告白した。
「わたしでいいなら……」
と、あの図書館での出会いのときと同じ表情で綾は答えた。
―よっしゃあああああ!!!
俊は心の中でガッツポーズ。
問題は沙耶だが、察しのいい彼女のことだからなんとかなるだろう。
沙耶とはマンネリ気味になっていて、ふたりでいるときも沙耶は時折つまらなそうな顔をしている。
だったら別れてしまったほうがいいってもんだ。
―好きな人ができた
俊がそう沙耶に告げたとき、彼女はふっと噴出すような顔で笑った。
「だと思ったんだよねー。なんかおかしいなーって」
「ほんとごめん!お前のこと、嫌いになったわけじゃなくってさ、なんていうか」
「あー、そういうのいらないから。私だってちょっと気になる人がいるしさ、いいんじゃない?」
随分あっさりしたもんだと俊は思ったが、最大の問題はこれで解決。
晴れて綾と堂々と付き合える。
綾はどんな下着が好みだろうか、などと気の早いことを考え、そして今に至る。
重い本を抱えた俊と綾は手をつないで図書館を出た。
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