桜とスケッチと旅と
田ノ倉 詩織
第1話桜と私
1, 桜と私
桜の事を意識したのは多分、小学校に入った頃だったと思う。
私の育った田舎は、桜といえば山桜であった。
染井吉野や枝垂桜のたぐいはまだ知らない頃、
村の春祭りの時、神社の境内で見た桜の花の印象が今でも頭から離れない。
境内の入り口にまるで城のお堀のように小さな川が蛇行してぐるりと囲んでいた。
その堀を見るかのように城の出丸のようなものがあり、そこへは階段を登っていく。
その階段を登りながら、ふと空を見上げたとき空を覆うように
両側から桜の枝が伸びていた。
右手から淡い黄緑色の花びら、左手から白に近い薄い桃色の花びらを
持つ桜の枝が伸び、下から見上げるとその二色が重なって見えて
美しかった事を覚えている。
正確には空の青、淡い緑色、白っぽい桃色、そして桜の葉の色の黄緑色と
臙脂色がかった新芽の色。
なんともいえない色の交差。
子供の私の目にくっきりと記憶を刻んだ。
其のときの記憶が私の中で桜の美しさを目に焼き付かせ脳裏に記憶させた。
大人になってから其のときの記憶が本当だったのか確認したことは無い。
春祭りをする神社は村から離れている為、帰省したときに確認することも
ままならないままに今では見られなくなってしまった。
ある記録的な大雨が降ったとき裏山が崩れ、神社ごと流されてしまったのである。
ともあれ、私が桜や色のきれいな花を好きになった原点は
幼少のときのその記憶にあると思っている。
色々な花を見て歩き、公園などの整理された染井吉野に飽き足らずに見て歩いた
枝垂桜の美しさや山の中などに一本だけある巨樹に魅了されてしまった。
そして、春になると毎年、そのことを確認する為に飛び回ることに事となった。
その話をひとつずつ思い出して書いていきたいと思っている。
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