ずっと一緒にいたから
「ちょっと聞いてます?!」
目の前には顔を真っ赤にしたお客さん。
「は、はい聞いてますよ」
私はお客さんの話を現在2時間も聞いている。
契約するはずがなんでこんな事になっているのだろうか·····
それは約2時間前の事私が暇すぎてダラダラしている。
いつもと変わらない日常。
カランと扉が開いて勢いよくお客さんが来た。
「キロク屋さんであってるかしら!」
「あ、合ってます·····えっと内容は?」
「私の記録買い取って頂けるかしら?」
「わ、分かりました·····こちらへどうぞ」
私はお客さんの勢いに戸惑いながらも奥へ案内した。
「まずこちらの契約書に目を通してください、それで構わないのなら契約書にサインを·····」
してくださいと言おうとした時にはお客さんは契約書に名前を書いていた。
「·····あのしっかり読まれましたか?」
「ええ読みましたよ」
「そ、そうですか·····えっとどういった記録を売るかお聞きしたいのですが·····」
私がそう言うと先程まで冷静だった表情がみるみるうちに怒りに満ち溢れた表情になった。
「私の夫についての記録全てです!」
私の夫に·····カズヒサなんですけどねあの人·····浮気してたんですよ。
先週離婚調停をしててようやく離婚できまして、住んでた家を慰謝料と一緒に出ていきました。
夫の浮気相手なんですけどね?
そりゃもうすっごい若い女の子ですよ!
なんでも私が素っ気ないとか冷たいとかで、お相手·····ユミコちゃんって言うんですけど、そこ子は俺の足りない心の隙間を埋めてくれたって·····あー!イライラする!思い出しただけでも腹立たしい!
「もう!キロク屋さん聞いてますか?!」
「は、はい聞いてますよ·····そのトノマチさん買い取る記録は分かりましたかが、考える時間を·····」
「結構ですあんな人の記録思い出すだけで虫唾が走る!·····キロク屋さんはそういった事無いんですか?」
「無い·····ですね、そういった事経験した事ないので」
トノマチさんのような質問をする人は結構いる。
その度に考えるが、結局無いですねと応える。
「そうなの·····ごめんなさいね、関係ない話を」
「お気になさらずに、こういったお話をしてくれて私は嬉しいですよ、いろんな人の経験を聞いて勉強になりますし」
私がそう言うと嬉しそうに彼女は笑った。
「ありがとうねそう言って貰えると救われます」
「話を戻しますけど、もう一度聞きますよ·····本当に今すぐ記録を買い取るので間違いありませんか?」
私がそう聞くとトノマチさんはゆっくりと頷いた。
「分かりました·····では目を閉じてください」
「はい」
トノマチさんは目を閉じた。
「·····さぁ思い出して、貴方の色あせない記録を」
私は彼女の頭に触れながら唱える。
光が部屋を満たした後私の手には真っ赤な結晶が握られていた。
「もう目開けても大丈夫ですよ」
「·····ありがとうございます」
「お金ですが、今回は申し訳ありませんが口座に振り込む形でもよろしいでしょうか?」
「はい」
「ではこちらに口座番号をお書きになってください」
トノマチさんはサラサラと自分の口座番号を書いた。
「·····ありがとうございます、振込を完遂した際にはこちらで処分致しますのでご安心してくださいね」
トノマチさんは店を出てこうとした時に何かを思い出したのか、私の方を向いた。
「今日はありがとうございました、どんな記録を売ったかは知りませんが、すごく心が軽くて·····本当にありがとうございました」
満面の笑みで彼女は言った。
「ありがとうございました、貴方の人生に幸多からんことを」
私はあれからトノマチさんの結晶を見ていた。
(真っ赤っか·····相当旦那さんに怒ってたんだろうなぁ·····あれ?)
私は真っ赤な結晶に小さな青があったことに気がついた。
(·····そうだよねずっと一緒にいた人だもんね、そりゃ悲しいよね裏切られると)
私はトノマチさんの結晶の鑑定結果を書いて眠りについた。
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