小さなお客さん

 小さい子供って親の言葉理解してないって思うかもしれないけど、意外に理解してるし、傷ついたりしてるんだよね、そう思うと子供って侮れないよね。


「キロク屋さん僕のキロク買い取ってください!」


 元気よく言う小さな男の子。


「え?あ、あの·····冗談だよね?」

「本気です!」

「あ、はい·····分かりました奥へ」


 私は小さなお客さんを部屋に案内した。


「えっと·····契約書なんだけど·····読める?」

「ケイヤクショって何?」

「契約書って言うのはね·····うーん·····約束を書いた紙の事だよ」

「そうなんだ·····ありがとうおねーさん!」

 この様子だと契約書も読めないと思う。

「漢字読める?」

「·····読めない」

「あー·····じゃあ私が読むね」


 私は何とか難しい言葉を簡単にして契約内容を話した。


「·····て感じなんだけど大丈夫?」

「うん!ありがとうおねーさん·····僕のキロクっていくら位になるの?」

「·····なんでそんな事聞くのかな?」

「えっとね!·····お母さんが僕のこといらないって·····お金かかるから産むんじゃなかったって、だからどうしてもお母さんに必要されたくて」


 男の子の表情は笑っている。


「·····分かったよ·····なんの記録を取るのかな?」


 私は怒りを我慢しながら言った。


「うーんとね·····お父さんの記録」

「お父さん?」

「そうだよ、お父さん死んじゃってもう居ないの·····だから」


 男の子は少し寂しそうに言った。


「·····そう、本当にそれでいいの?忘れちゃうんだよ?·····君の大切な思い出、本当にいいの?」

「·····いいんだお母さんが笑ってくれたら、お父さんも許してくれると思うんだ」


 この子が決めたことだ。

 私はキロク屋これ以上この子に関わることなんて出来ない。


「··········うん、契約書に名前書いてもらえる?」


 こくりと頷きひらがなでタニグチユウと書いた。

 この子の瞳には戸惑いが無い。

 記録を売るかどうするか、考える時間は要らないだろう。


「タニグチさん······今から私が書くお手紙をお母様に渡してください」

「·····うん」


 私は真っ白な便箋に文字を書き始めた。


 タニグチユウ様のお母様へ

 ここに貴方様の息子様との契約が成立したことを記します。

 この契約で彼が売った記録はユウさんのお父さんの記録です。

 ユウさんの記録は現金と交換致します。

 苦情は受け付けません。


 追記

 貴方の言葉の意味をお子さんが理解していなと思っているのかもしれませんが、理解してますよ。

 ユウさんの選択に対して責める権利なんてあなたには無いことをゆめゆめお忘れなく。


「ありがとうおねーさん!またね〜!」


 真っ白な便箋と茶色の封筒を持って元気に笑って男の子は店から出ていった。

 淡い黄色の結晶を残して。







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