契約

「··········」


 私はスミレさんのくれた情報に目を通した。


「ありがとうショウちゃん」

「俺は何もしてないですよ礼ならスミレさんに言ってください」

「ショウちゃんスミレさんって呼んでるんだ、お母さんって呼べばいいのに」


 私がそう言うとショウちゃんは困った顔をした。


「スミレさんは母というよりは恩人っていうのが強くて·····尊敬してるんで」


 少し照れた様子でショウちゃんは言った。


「そっか、ショウちゃん今高校生だっけ?」

「はい、今は高二です」

「そっか·····で進路は?」

「えっと·····就職で」

「やっぱりスミレさんの事務所に?」


 私がそう聞くとこくりと頷く。


「俺あの人に恩返しがしたくて」

「スミレさんはなんて言ってたの?」

「えっと·····あんまりいい顔されなくて」

「そうだよねぇ·····スミレさんの仕事って結構危ないし」


 なんでも屋というだけあって仕事内容は自由だ。

 時々警察にも依頼されるし、できるならショウちゃんにはその世界に入って欲しくないと思うのも無理はない。

 過去に1度スミレさんは事件を追ってて怪我をしたこともあるから尚更だ。


「まぁ私は君にアドバイスしかしてあげられないんだけどねそうだなひとつ言うなら」


 私はショウちゃんの頭を撫でた。


「スミレさんが納得するまで言ってみな?でもただやりたいじゃダメ、理由とか言ってだよ?」

「頑張ってみます!」

「よしよしその意気だよ少年·····話は変わるけど今回の依頼料なんだけどさ」

「あ、そうでした!」


 ショウちゃんはテーブルに領収書を出した。


「うへぇ·····高いなぁ·····これで足りる?」

「今確認しますね·····はい!大丈夫です」

「ありがとうねショウちゃんスミレさんによろしく伝えといてよ」

「はい!では失礼します」

「またね〜」


 私はショウちゃんに手を振って見送った。


 時間を見るともうそろそろで約束の時間だ。

 私は契約書を持って待っていた。

 カランと扉が開く音がした。


「いらっしゃいませ·····モリさん」

「キロク屋さん契約の話ですが·····進めて貰ってもいいですか」

「·····はい」


 私はキロク屋だ。

 お客さんの意志を否定しちゃいけない。

 否定する権利は·····無い。


「モリさん、どんな記録を取りますか?」

「前付き合ってた彼氏の記録をお願いします」


 やっぱりと私は思った。


「私·····これから再スタートしたくていつまでも彼のこと引きずる訳にはいかないんです」


 決意のこもった瞳で私を見るモリさん。


「·····彼氏さんがどんな人か聞いても?」

「どうせ忘れるんで構いません」


 それは2年前の事です。

 私はノボルと付き合っていました。

 出会いは友達がセッティングした合コンです。

 初めて見た時はすごくかっこいい人だなぁと思っていました。

 こんな人見れたなら人数合わせで行ったかいがあったと思えました。

 そして合コンが終わって私は彼に話しかけられました。

「連絡先教えてくれない?」って言ってきてそこから

 私たちは交流を始めました。

 それで半年過ぎて告白されたんです。

 私はその時一緒にいる時間が好きでOKしました。

 その日を境にノボルは変わりました。

 お金を忘れてきたから貸して、次会う時には返すから。

 そんな事を言うのが多くなりました。

 現に今もほんの少しだけしか返ってきてないですし。

 その時はノボルは嘘つかないから大丈夫·····なんて思ってて、今思えば私馬鹿だなぁ·····返すわけないじゃん。

 別れる決め手はノボルが私のことを財布扱いした事ですよ。

 その時になんか冷めちゃって·····。


 その時のモリさんの顔は泣きそうな顔をしてた。

 本当にノボルさんの事が好きだったのだろう。


「·········」

「あ、ごめんなさいこんな話しちゃって」

「いえ、お気になさらずお客さんのお話を聞くのも私の仕事なので」

「·····キロク屋さんは·····誰かを好きになるとかってあるんですか?」


 私はモリさんの言葉にどう応えたらいいか悩んだ。


「·····私はこの仕事に就いてからそういうの気にしたことなかったです、学生の時も全然」


 私は力なく笑った。


「そう·····なんですか、すみませんお仕事に関係ないこと聞いちゃって」

「いえいえ、そんな·····本当にいいんですか?」

「構いませんもう·····終わったことですし」

「分かりました·····では目をつぶってください」


 ゆっくりとモリさんは目をつぶった。

 私はそっとモリさんの頭に手を乗せる。


「·····さぁ思い出して、貴方の色あせない記録を」


 部屋が淡い光に包まれゆっくりと結晶の形を作る。

 私が彼女の頭から手を離すと私の手には淡いピンクに青色が混ざった結晶が握られていた。


「もう終わりましたよ、目を開けてください」


 私がそう言うとモリさんは目を開けた。


「記録ってどんな感じで取るんですか?」

「記録は私が今手に持ってるこれで結晶にして取り出してるんです」


 私は手に持っている結晶を見せた。


「わぁ·····綺麗、これが私の記録なんですね」

「はい、これがモリさんが歩いてきた記録なんです」

「ありがとうございます·····なんの記録かは覚えてないけど、素敵な記録なんですよね」


 彼女がそう言うと結晶の青が少しだけ強くなったような気がした。







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