キロク屋
赤猫
不思議なお店
この物語は記録を売り買いする不思議なお店『キロク屋』の少しだけ悲しくて寂しい記録である。
「いらっしゃいませ」
私は入ってきたお客さんに挨拶をした。
「あ、どうも·····ここで記録がお金になるって聞いたんですが·····」
「その認識で合ってますよ、キロク屋へのご来店ありがとうございます!·····詳しいお話はあちらで」
私はお客さんを奥の部屋に連れていった。
ここでは記録を売る上での注意事項を説明している。
お客さんにはどんな記録を売るのか聞いたりする。
「早速契約書に目を通してください」
私は契約書を渡した。
【記録を売る際の注意事項】
『1、契約が完了するとその記録は 永久に戻せません』
『2、取り出すとその記録は記憶から完全に消えます』
『3、貴方の記録が買い取られた場合は取り戻すことは所有権は買い手に移されますので不可能です』
『特例として記録を保存して買い取ることもあります』
『全てを了承した上で契約書にサインをお願いします』
契約書を読み終わったのかペンを持って名前を書いた。
「·····はい受け取りました·····えっと、モリさんで合ってますよね?」
「·····はいモリで合ってます」
「契約書はこちらで保管させてもらいます契約は記録の回収が終わるまではいつでも破棄できますので」
「すぐには回収しないんですか?」
「本当にその記録が、貴方にとって大切なものなら考える時間がいると思って、すぐにやると後悔することもあると思いますので」
私がそう言うとお客さんは少し不満そうな顔をするがこくりと頷いた。
「そうですね·····また来週こちらに来てください·····そして貴方の決断を聞かせてください」
「はい」
「ではまたのご来店をお待ちしております」
お客さんは店から出て行った。
「·····はぁ、いつまでたっても接客は慣れないなぁ」
この仕事を始めて結構経つのだが慣れない。
カランと扉の開く音が聞こえた。
私は急いで部屋から出た。
「いらっしゃ·····なんだフジさんか」
私がそう言うと男性はムスッとした顔をした。
「なんだって·····一応客なんだけど」
「また記録を買いに来たの?」
「そうそう·····またネタが尽きてさ〜」
彼は小説家だ。
ネタが無くなると定期的に記録を買いに来てくれる。
「どうぞこちらへ」
私は保管庫に案内した。
保管庫の中には記録を結晶にした物と契約書が沢山ある。
「ねぇ、ピンクと青の混じった記録の結晶って無いの?」
「はいはい·····えっと」
私はピンク色の結晶を注意深く見る。
「ピンクと青って·····また失恋とか悲恋系探してるの?」
「次の小説はそういうの書きたいからさ」
「人の記録見て書くって、いい趣味とは言えないなぁ·····」
「それを売ってるのは君だから君もいい趣味してないけどな」
笑いながら彼は言った。
「·····まぁ私もこれで食っていけてるからねぇ·····あったよほら」
私は2つの結晶を渡した。
「これが青が濃いやつでこっちのが薄いやつどれ買う?」
「·····ずるいなぁどっちも買うって分かってるくせに」
「まぁね、フジさんは常連さんだから結構分かってるつもりだよ」
「じゃ、2つともくれる?」
「毎度あり!で他は見てく?」
「ん〜そうだなぁ·····また今度で」
「了解です·····それでお値段だけど·····この記録はね·····2つで500万円ね」
「相変わらず高いなぁ·····いつもの口座に振り込んどけばいい?」
「人の記録を値段にしてるんだから当然でしょ、これでも安くしてるんだよ·····いつもの口座に振り込んどいて」
私は2つの結晶を紙袋に包んだ。
「はいこれ」
「ありがとうね」
「またのご来店をお待ちしております」
そしてまたお店の中は静かになった。
ここのお店には人はあまり来ない。
記録を売る人や買いに来る人なんて相当の変わり者だからだ。
(モリさん契約破棄してくれないかなぁ·····)
モリさんの表情を見る限り明らかに迷っているのだ。
お客さんの事情に口を出すのはご法度とは言えさすがに後味の悪い商売はしたくない。
私はあの人に連絡することにした。
『もしもし』
受話器越しから不機嫌そうな女の声が聞こえる。
「あ、もしもしスミレさん?私キロク屋」
『メリーさんみたいに言うな…今回はどう言った要件で?』
「えっとね、ちょっと調べて欲しい人がいるの·····えっとモリヨウコさんって人なんだけど」
『了解した·····そうだな来週でも構わないか?そちらに使いをだして渡そう』
「大丈夫だよ出来れば午前中にお願いね依頼人午後に来るから、依頼料は使いの人に渡しとくね」
『分かった·····キロク屋毎回言うが客の事を気にかけすぎるなよ·····記録なんて特殊な商売をしてるんだ客一人一人に寄り添っていたら埒が明かないぞ』
「·····分かってるよ、私は記録を見るの好きだから大丈夫だって心配症だなぁ·····あ、そういえばショウちゃんは元気?」
スミレさんはため息をついた。
『話を無理やり変えやがって…あぁ、元気だよ今は学校に行ってる』
ショウちゃんは高校生だ。
スミレさんが、ある日突然拾ってきたのだ。
ショウちゃんの記録を覗かせてもらったが、それは酷いことを両親からされていた。
「そっか、ショウちゃんの記録どうする?」
ショウちゃんの家族に関する記録は私が取ったのだ。
スミレさんの頼みで、ショウちゃんもそれに対して了承している。
『·····そのまま保管しといてくれ』
「はーい·····じゃまたね」
私は電話を切った。
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