一度きりランプ

 職業は? と訊ねられたら「ランプ売り」と胸を張って答える。なにも間違ったことは言っていない。ただ、そのランプが一度きりしか点かないってだけだ。


 言うなれば当てつけなのだ。

 わたしには魔法が使えない。だから、軒先に吊るすランプの外側しか作れない。

内側には、燃え続ける魔法の火ではなく、普通のろうそくを入れるしかない。

 それは、カラクリで例えると、一度スイッチを切っただけで、二度と点かない電球を売っているようなものだ。幸い工芸の腕はあったらしく、わたしのランプはそれなりに売れたけど、一晩灯しただけでもう点かなくなってしまうので、わたしは大量のランプを鈴なりに積んだ原付で、毎日場所を変えては売り歩く。


 そういう訳で、一度ランプを売った客は忘れられない。だから、その客が二度目に目の前に現れたとき、とっさに逃げようとしたわたしは悪くない。

 てっきり払い戻しを請求されるかと思いきや、客はわたしの原付の荷台をつかんだまま言った。

「弟子にしてください!」


 ランプの造形に惚れた、というそいつはしつこかった。最終的に、「弟子にしてくれたら訴えませんから」と脅されて、わたしはしぶしぶそいつを弟子にした。

 惚れたと言いながら、そいつは救いようもなく不器用だった。力が強すぎてランプの枠を壊し、彫り物はまちがえ、内側に張る薄いガラスはことごとく落として割った。

 めちゃくちゃ落ち込む一番弟子がさすがに気の毒になってきて、わたしは提案した。

「魔法が使えるなら、中に入れる火をお願いできない? それだって、ランプの大事な一部でしょ」

 弟子は言った。

「魔法使えないっす」


 少年誌なら、力を合わせて最強のランプが完成するシーンじゃないの?

 運命の使えなさに不貞腐れるわたしをよそに、弟子は早々に自分の才能に見切りをつけ、今度は販売員に鞍替えしたようだった。

 露店の隅にひっそり並べていたランプの前に立ち、声高に呼びかける。

「そこ行く道のお方々、神秘のランプはいかがでしょう」

 ただのロウソクの入ったランプを、弟子は聖杯でもかかげるように、うやうやしく持ち上げる。

「これのランプは特別です。なんと、死者の魂で光るのです」


 たった一度の灯火は、死者からの慰めのメッセージだとして、わたしのランプは跳ぶように売れた。

「ウソは言っていませんよ」

 弟子は相変わらずヘタクソなランプを作りながら笑う。

「ロウソクの灯が消える瞬間、ぼくはぼくの隣に、彼女の魂がいてくれると確信しました。だから、火は一晩で消えて当然だった。その直感がウソだなんて、誰も証明できませんよね」

 いけしゃあしゃあと言ってのける詐欺師は憎らしいけど、「あなたのランプのおかげで、ようやく夫の死を受け入れられたの」と客から手をにぎられてしまっては、強く非難もできやしない。

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