ユニークな男 その3
お婆さんは家から出るのを拒み、さらにはお爺さんの御遺体を搬出するのをやめてとすがりつく。それを、「お爺さんは病気らしいので病院に連れていきます、あなたも付き添って下さい」と言って納得してもらい、保険証等を持たせて連れ出すことに成功した。
※ ※ ※ ※ ※
現場近くに総合病院があるから、そこへ向かうかと思ったが、壱ノ宮警察署近くの森友総合病院へ向かう。
少し不思議に思ったが、森友総合病院ならよく協力してもらっているから、そちらの方が心安かった。
「大丈夫ですかね、お婆さん」
助手席で消臭剤を班長と自分にスプレーしながら、運転中の上司にマキが問いかける。
「本来ならマキくんと一緒に後部座席に乗ってもらって、ついでに事情聴取したかったんだがな」
お婆さんはお爺さんから離れたくないときかなかったので、仕方無く搬送車に乗せている。
もちろん、マキがそっちに乗ればよかったのだが、あいにく満席になったので黒田と行くことになった。
※ ※ ※ ※ ※
病院に着くと、御遺体を検死の部屋へ、お婆さんは診てもらうために診察室へと連れていく。
もちろんまた説得しなければなく、マキは辛抱強くそれをおこない、なんとか行くことができた。
「マキくんは医者から経過をきいてきてくれ。お婆さんから話が訊けそうなら訊くように。俺はミドウのところへ行ってくる」
そう言うと、黒田はマキをおいてさっさと行ってしまった。
※ ※ ※ ※ ※
診察室前の廊下にある背もたれの無い長椅子に腰を下ろすと、マキはふぅとため息をして何が起きたのか思い返す。
──ばたばたしたから考えてなかったが、あのミドウって人がこの件の原因なんだろうか。
あの人がいなければ、おそらくこれは年金目的の詐欺か殺人隠蔽と考えられるが、お婆さんを見る限りそうではない。
寝たきりになったお爺さんが、亡くなってからかもしくはその前に、お婆さんが認知症になったという感じ。
けどそこにあの人がいるから、現場がややこしくなって、どういう事件なのか分からないんだ。
「やっかい事だよ」
班長の言葉が思い出される。なるほど、厄介だ。なんなんだろう、あのミドウって人。──
※ ※ ※ ※ ※
しばらくして診察室の扉が開き、看護師が招き入れてくれた。
「もうお話しできますよ、ただし気を付けてください」
なにを気をつけるのか教えて欲しかったが、当人がいる前では聴けなかったので、とりあえず話しかけてみる。
「お話し大丈夫ですか」
「はい、取り乱してすいません」
ちゃんと受け答えできることにマキは少し驚いた。さっきは取り乱しただけなのかなと思う。
「なにがあったんです」
「あのですね、チャイムが鳴ったんです。そうしたら男の人が入ってきて、追いかけて、ゴルフの棒で、今度はヤクザが来て……」
ここで話が止まった、促すように頷くが反応が無い。
「……お爺さん、お爺さん、お爺さん、どこ、お爺さんどこ、とこなの……」
様子を見て医者は静かに首を振る。
「──ここまでにしましょう」
医者が傍らの看護師にうながすと、お婆さんを隣の部屋に連れていく。
「鎮静剤を飲んでもらって落ち着いてもらいます」
医者の言葉を聞いてからマキは質問する。
「すいません、あれはやはり認知症なんでしょうか」
う~んといいながら頭を掻きつつ、医者は口を開いた。
「専門じゃないから断言はできないけど、あれは認知症じゃなくて判断力が極端に低いんだと思うね」
「判断力が低いって」
「時々いるでしょう、何やるにしても誰かに決めてもらわないと決めれない人」
「──ああ」
「それの極端なものだと、みています」
医者の意見をメモすると、立ち上がり挨拶して立ち去ろうとしたが、ふと気になって訊いてみた。
「ミドウさんって人は、よく来るんですか」
医者はくすりと笑い、
「馴染みの常連さんです」
居酒屋じゃあるまいし、医者にそう言われるほどよく来るのかとマキは顔をしかめる。
もう少し訊きたかったが、まずは報告が先決と検死が行われている地下の処置室へ向かった。
※ ※ ※ ※ ※
地下廊下を進むと、処置室手前の部屋で書類を記入している人が窓越しに見えた。ノックをして入り身分証明をする。
「壱ノ宮警察署の牧です。検死の結果はどうでしょうか」
「まだ途中だけどまあたぶん間違いなく自然死だね。心筋梗塞だと思う。ただ外傷がある」
「外傷ですか」
「つついたり叩いたりしたくらいのだけどね、同居の婆さん、ボケてたんだって? 死んだのが分かんなかったかもな」
マキはメモをしながら、そうかもしれないなと思ってた。
だいたいまとまったので、黒田のところに行こうとしたが、何処にいるのか分からない。ミドウとかいう人のところなのは分かっているが、そこが何処にのか分からないのだ。ダメ元で検視官に訊いてみる。
「ミドウさんなら310号室だよ、専門の部屋」
「専門の部屋って」
「行ってみればわかるよ」
検視官は、にやにやしながら送り出してくれた。マキはどういう事なんだろうも思いながら、階段で3階まであがる。着いてからエレベーターがあるのに気づいて、しまったなと思った。
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