第25話 典翁の噺 二

 ごろりと転がる守り役達の首に、皆が驚くなか佐武朗は言い放つ、我は生まれ変わった、これより舐めた真似をするものはこうなると。

 その言葉通り、それからの佐武朗は人が変わったように自らを鍛え学び、そして信頼できる仲間たちを集め始めました。

 古くから佐武朗を知る者たちは付け焼刃ですぐ飽きるだろうという者と、ようやく目覚めたかこれで御角野家も安泰だと喜ぶものと様々な声が出ましたのであります。


 月日が流れましてある年のことでございます。隣国が攻めてきたので佐武朗の父常勝に御角野家本家から出陣するよういわれ出陣したのでした。しかしこの戦は本家のはかりごとで、常勝の暗殺が目当てでありました。

 戦の最中、常勝は重臣に背中から討たれてしまったのであります。


 佐武郎は父の跡を継いで、御角野家分家の当主となりましたが、老臣達はついてゆけぬ仕えたくないと殆どが去ってゆき家臣と呼べるものがほとんどいなくなってしまいました。

 そして最強といわれた常勝と違いもっとも弱い御角野家分家になったと侮られ、今だとばかりに領地を奪おうと別の分家が佐武郎達を百の軍勢で襲ってきました。

 しかし佐武郎が集めた若き家臣たちは、わずか数名で百の軍勢を返り討ちにし大勝利、この出来事は御角野家全体だけでなく尾張の国中に広まったのであります。


 これを聞き国司雁来家の当主、雁来隆之介義仲かりきりゅうのすけよしなかは興味を持ちますが、佐武郎まだまだ勢力が小さ過ぎたのでそれだけでおわりました。

 そして佐武郎はこれをきっかけに軍勢として強くならなければならぬとさらに人材を集め始めました。家柄格式を気にせず、使えるものをどんどん登用し、手柄を立てたものは分け隔てなく褒美を与え、失敗したものは誰であろうと容赦なく罰を与えました。


 このやり方を知った家柄格式身分の壁で出世できない者たちが佐武郎の元に集まり、その総数が三百となった頃、その動きをよしとしない御角野分家たちが、言いがかりというような名分で次々と佐武郎のところに攻めてくる。

 だが神憑りというか魔が憑いたというか、それら分家を次々と倒し、ついには御角野家本家と同じくなり尾張の国半分が支配地となったのであります。


 さすがに無視できなくなった御角野家本家は、国司雁来家に佐武郎討伐を命じるようにいうが、家来でありながら自分をないがしろにしてきた本家の言葉を無視します。業を煮やした本家は雁来を亡き者にしようとしたことを知り、若き当主義仲は逃げ出して佐武郎のもとにいきます。


 助けを求められた佐武郎は大義名分を手にいれ御角野本家と戦い、何度かのいくさの末ついに勝利をおさめ尾張国の支配を手にいれました。そしてこれこそが無二の親友としてともに天下を取ることになった佐武郎と義仲の出会いなのでございます。


それから二十年の時が流れました。


佐武郎と義仲の軍勢は、多大な犠牲をはらいながらも日の本をひとつに、天下統一を成し遂げたのでございます。


雁来義仲は神皇に褒められ、[天下一将軍]の地位を賜りました。義仲はそれは我が友佐武郎にと辞退するが、佐武郎本人は要らぬといい、神皇もなぜかそれは出来ぬというので、結局義仲は受け入れ、すべての武士の頭領である[天下一将軍]となりました。雁来義仲天下一将軍の誕生でございます。


 義仲は[天下惣無事てんかそうぶじ]を各地に伝え争ってはならぬと命じ、大いなる和を願い元号を大和やまとと代えたのであります。


 そして大和二年、義仲の家来となっていた御角野佐武郎は天下にその力を知らしめるため、神朝邸の建て直しと将軍用の城を建てることを義仲にすすめます。義仲はそれを神皇に進言し、神皇もそれを許しました。


 佐武郎はまず神朝廷を日ノ本の象徴とばかりに盛大で荘厳かつ豪華な邸を建てます。神皇と貴族およびその一族はそこに移り住み、皆おおいに満足しました。


 次に佐武郎は武士の頭領たる天下一将軍のための居城を建てはじめますが、すこしばかり様子が違いました。神朝廷のある都でではなく、そこから丑寅の方にある山の天辺に造りはじめたのです。

 義仲はなぜそこに造るのかと不思議に思ったのでしたが、佐武郎は民草すべてに見え睨みをきかせるようにだと言うので、なるほどと得心したのであります。


 しかし実はそうではなく佐武郎の思惑は別にありました。

 城がだんだん出来始めると、それは城ではなく大きな大きな塔を造っているとはっきり分かってきました。

 義仲は話が違うではないかと佐武郎に問い詰めるが、突如佐武郎は義仲を塔の牢に閉じ込めるという暴挙にで、神皇達の住む神朝廷は細工をしてあり結界で閉じ込め、ついに佐武郎は本性を表したのであります。


 名を佐武狼とあらため自らを魔人皇と名乗り、神皇にとって代わり日ノ本の頂点に立ち、天にいるという神々に攻め込むと宣言したのでありました。


 この言葉に神皇たちは仰天したが閉じ込められて何もできない。ほかにも神皇派の武士達が反発しますが、魔人皇佐武狼はそれらを魔人と化した配下の軍勢を向かわせ力ずくで反抗勢力滅ぼしていったのであります。


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