カーキ=ツバタへ

 どうしてと、たずねることすら許されないような物言いに、ユーリは口をつぐみ、そうかとだけこたえる。


「明日の夜明けに出発する。出かける前にもう一度寄るから、他にも必要なモノが思いついたらメモしておいてくれ」


「わかった。ドアの外に貼っておくことにしよう」


 ユーリが静かに部屋から出て、自室にもどる。

 地下茎瘤をくり抜いたように造られた部屋には、ベッドとシャワーと風呂、そしてトイレがある。世界樹の森に来てからいくつもの驚きがあったが、もっとも驚いたのがこれらだった。


 「世界樹庭園にある湖から管茎を使っていったん上にあげて落ちるチカラで出てくるようになってる。さらに陽射しで温めてある管茎もあるから温水もでるよ」


 クッキーに仕組みを教えてもらっていちおう理解したが、それよりも使うたびに便利で快適なのを実感してしまう。


「まったく、快適過ぎて離れたくない気持ちになるな」


 木の実で作ったとかいう石けんとシャンプーも気に入ってる。

 風呂で身体を癒やしたあと、綿花で作られたというバスタオルとかいうのもユーリは気に入っていた。


※ ※ ※ ※ ※


 夜明け前に起きたユーリは、身支度をすると、ペッターの部屋の前にいきメモを受け取る。

 地下住居から地上に出て、モーリのところに行くと、すでに起きて待っていてくれた。


「はやいな」


「ユーリさんこそ。こちらが紹介状になります、娘によろしく言っといてください」


「ああ、世話になってると伝えておこう。では行ってくる」


 用意しておいてくれたウマに乗ると、森の外に出るまでゆっくりと進み、日が昇るとともに街道を駆け出した。


※ ※ ※ ※ ※


 途中で昼休みを挟んだがほぼ一直線に駆け抜けると、日が落ちる前にカーキ=ツバタ王国に到着する。


 人口10万人ほどで、男女比は1対2、女神族信仰の女王が治める国だ。

 以前は石造りの城壁で囲まれていた国だったが、今はクッキーの能力により城壁の周りを生け垣のような森で囲まれている。

 おかげで女人国らしく華やかな見た目となっている。


 だが、カイマ襲撃事件のおかげで、危険な場所と思われてしまい、国交、貿易、国民の流出と色んな問題を抱えてしまってた。


「そのうえ、帝国が侵攻してくるかもしれないとなると、エルザ女王も大変だろうな」


 知らぬ仲でもないのでユーリは同情するが、立場的にはどうしょうもないので、気の毒に思うだけだった。


 ウマから降りて城門の衛兵に紹介状を見せようとするが、押し止められた。


「ユーリ様、お久しぶりです。私はカイマ襲撃のとき、東の城壁で戦い、その後の調査隊でもお供をさせてもらった者です」


 そういえば見覚えのある顔だった。


「憶えていてくれてありがとう、しかし役目を果たさないと給料を貰いにくくなるぞ」


 そう嗜めると、衛兵は慌てて敬礼をしたあと、紹介状を受け取り確認して、城内へと案内してくれた。


「ウマはこちらで預かっておきます。お帰りの際は声をかけてください」


「ありがとう、頼むとするよ」


※ ※ ※ ※ ※


 城壁内の街を通り抜け、ユーリがまず向かったのは、ギルドの出張所だった。

 場所を訊ねながらたどり着くと、受け付けでギルドマスターに会いたいと申し出る。


「失礼ですが、ギルド所属の方でしょうか」


 ユーリが胸元からプレートを取り出し見せる。すると受付嬢は怪訝な顔をしながら受け取りしげしげと眺めた。


「──見たことがないタイプですね。職業はなんでしょうか」


「いちおう冒険者かな。初期の型だから古いかもしれないが」


「初期? ──少々お待ち下さい」


 受付嬢は席を外すと、奥に引っ込みいくつかある部屋のひとつに入る。しばらくしてドタドタと音を立てながら、責任者らしい風体の男が受付嬢とともに走ってきた。


「こ、これは失礼を。ユーリ様でいらっしゃいますね、昨年のカイマ襲撃で活躍された」


「手伝っただけだが、まあそうだ」


「失礼しました。彼女はあのとき避難していたので、お顔を存じ上げなくて。当出張所のギルドマスターです、お見知りおきを」


 ギルマスがやたらと恐縮しているので、何か粗相してしまったのかと受付嬢は顔を青ざめている。


「気にしなくていい、それよりもそのプレートは、今でも使えるのかが知りたいんだが」


「も、もちろんでございます。当ギルド創成期に多大な尽力をされたことは伝え聞いております。このプレートはその時作られた特別仕様のものですね、初めて見ました」


「そっちも手伝っただけだから、気にしなくていい。使えるのなら頼みたい事があるのだが」


「はい、何で御座いましょう。とにかく奥へどうぞ」


受付カウンターの横から入ると、先程ギルマスが出てきた部屋に入る。

 応接スペースの長椅子に座ると、対面にギルマスが座る。


「何か飲み物を持ってきましょう、お茶ですか、それよりもお酒の方が」


「旅から来たばかりだから水がいいな」


「水ですか……、ではお茶をお出ししましょう」


──本当に水の方がいいんだがな──


ギルマスの顔を潰してはいけないと、ユーリはありがたくお茶をいただくことにした。


「それで、頼みごとというのはなんでしょう」


「最近の帝国の事情を何か知らないか。知っていることを教えてほしい」


  ユーリの言葉にギルマスの顔が強ばる。

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