今日も頑張れ黒幕(仮)くん!~ユニークスキル【深化】で黒幕になりたいけど、それどころではないぐらい巻き込まれています~

弍射 都

一章 黒幕(仮)胎動

1話 サービス開始とキャラメイク




 テレビ画面に竜と人間の戦いの様子が映し出されている。剣に魔法、様々な攻撃のやりとりはきらびやかで、男なら誰もが憧れた“ファンタジーの戦闘”だ。



『異世界に飛び込め!』

『Alternative・World・Online、本日サービス開始!』


「 今日限定のCM……なんて贅沢なッ!? 」

「近所迷惑にならないようにね〜」



 茶番をしてみたら姉さんに注意された、反省。

 それより、サービス開始当日にこんなサプライズとは、運営もわかっていらっしゃる。


  Alternative・World・Onlineとは、日本のベンチャー企業が海外のどっかの研究所と共同で開発した世界初のフルダイブ型VRMMORPGだ。



  目の前にいるおっとりとした姉さんは既にβ版をプレイしている。俺も運良く当選し、第一陣としてプレイできる。もちろん攻略本見ない主義のため姉からすら何一つ聞いていない。


  正午からサービス開始だからそれまでに夏休みの課題を進めよう。まだ夏休み初日と言っても、ゲームに没頭する気なので答えを写すつもりだ。


「ああ、楽しみだな〜」









  あと5分。姉さんに手伝って貰ったので結構終わった。これならすぐ終わるかな。受験生だから課題少なめだったのも助かった。作った時間でゲームやるのもどうかと思うが。


 ……大学入れるかな? ま、まぁいいや。そろそろ準備しよっと。



「水分補給ヨシ! トイレヨシ!」



  いかついヘルメット型機器を被る。少し早めに入っとくか。



「スイッチを入れるだけでいいんだよな、フルダイブなんていう最先端技術なのに起動の仕方は大分アナログだな」



  押してみる。おお、こんな感じなのか。視界がぐるぐるし始めた――




  起動出来たのかな?真っ暗だ。お、カウントダウンだ。




『3』

『2』

『1』

『0』

『サービスを開始します』




  明かりが現れた。 暗闇の中に屋台が一つ。 近づいてみるしかない。屋台の前まで行き、暖簾を腕で押す。



「へい、らっしゃい!」


「はい? 子供?」



  屋台の中では金髪ショートの碧眼ロリが浮いている。そう、浮いている。

 キャラメイクはこんな場所でやるのか?



「わたしは管理AI8931番、ハクサイだよ。よろしくね! 屋台はどんな反応するか遊んでただけだよー」


「名前がダジャレでいいのか……」



 それに人で遊ぶなよ。 まあ、小さい子に怒るのもあれだから言わないけど。



「はい、座って座って! 早速キャラクターを作ろー! はい、ドン!」

「おお、なんか出た。これ俺が勝手にやる感じなのか?」

「そーだよ! 何か聞きたいことがあったら聞いてね!」


  自分で操作するのか、楽でいいけど。




 ――よしこんな感じかな。白髪のミディアムくらいで水色の瞳、あとはリアル準拠で身長175cm、痩せすぎず太り過ぎずになったな。残りはスキルと種族だな。初期スキルは3つか。


 ん?



「なあ、このスキルの1つと種族の枠が黄色くなってるんだけど、これ何?」


「それはねー、ランダムも出来ますよーってやつ」


「ほえー」



  これはあれだ。レアな種族とスキル引いて二つ名とかついて有名になるやつだ! 俺知ってる!!



「じゃあ、早速引くわ。このランダムを選択すればいいんだよな?」


「そーそー。がんばってー」


「まずは種族からいこう。こいこいこいこいこいこいこいこいこいこーい!」



 ――パンパカパーン

『あなたの種族は人間? です』




「なあ、人間? って疑問形だったよな?」


「わかんなーい。キャラクターシートに書いてあるんじゃない?」



  そうだ、それがあったわ。やっぱりハテナがついてる。



「これってただの人じゃないってことなのか?」

「さあ? わたし魔物作るお仕事だから」


「そうか、分かんないならしょうがないか……いや管理AIなら分かっていて欲しかったけど。まぁなるようになるか。お次はスキルいこう、こーーーーーーい!」




 ――パンパカパーン

『ユニークスキル:【深化】を獲得しました』




  お?



「キッッッッター!」

「わっ!うるさいー」


「あ、ごめん。それより、ユニークスキルってどんな感じなんだ?」



  気をつけよう。でもこれは主人公ルートでは? 店主、チーレム一丁!



「初期スキルのユニークスキルは、解放条件が開示されててそれをクリアしてから使えるようになるよー、それと他のスキルと違ってスキルレベルがなくて使い手の力次第だよー。初期スキルでユニーク引いた人はあんまりいないみたいだよー、おめでとー」



  まだ使えないのか、きっとその分強いんだろう。どんなのなんだろう、楽しみだ。



「今すぐにでもスキルの内容と解放条件見れるからタップして見てから、他の初期スキル選ぶといいよー」


「解放されてないのに見れるのか、まぁ見るが。なになに……ん? ナニコレ? は?」


「んー? どしたー? ……プッ、キャハハハハ、何それ、プッ、クククッ! 無理お腹痛いー!」



 はい、問題の内容がこちら。



 スキル

【深化】ランク:ユニーク

 より深く、どこまでも深く、何よりも深く。

 君ならば、かの■■■■■にも届く。

  さあ、堕ちよ。

 〖解放条件〗

 ●種族:人間 の住民100人を1人で殺す0/100

 ●村、町を合計3つ滅ぼす0/3

 ●特性:悪人 を500人を従える0/500

 ●特性:善人 の王族を1人殺す0/1

 ●上記達成まで警察機関に捕まっていない





 無理やん。これ酷すぎ。伏字もあって強そうではあるけど悪の道まっしぐらじゃん。



「これ変更とかできない?」

「残ねーん、ランダムは引いたものが自動で確定されまーす」


「じゃあ、解放しなくてもいいんだよな?」

「いいけど、ユニークスキルなんてよっぽどのことがないと1つしか手に入らないからもったいないねー」



 ……どうせ捕まったら解放されなくなるんだから、やれるだけやってみるか。


  殺しに関してはいちいち動揺したりする豆腐メンタルでもないけど、従える方はな……チンピラ共の親玉だろ? そんないかつい見た目じゃないんだがなー、どうしよ。



「長考してるとこ悪いけど、他のスキルもパッパと決めちゃってー」

「へいへい。どうなるかわかんないし、適当に凡庸性の高いの選ぶか」



 どれどれ……お、これとこれかな。



「バッチリ決めたぞ」

「んー、へー、いいんじゃない?」




 スキル

【隠密】ランク:ノーマル レベル1

 身を潜め、気配を薄くする


 スキル

【歩術】ランク:ノーマル レベル1

 歩き上手になる。歩くことに補正が入る。

 アーツ:踏み込み




 分かりやすいし、地味だけど使い所は多そうなやつにした。



「ここにあるアーツはどうやって使うんだ?アーツがあるやつとないやつの差は?」


「アーツはこれを使うって思い浮かべると体が動くよー、アーツがないやつはスキルを使うように意識するか、常に適応されてるやつだねー。アーツがあるやつはスキルを使うというよりアーツを使うって感じかなー」


「アーツ無しにはパッシブとアクティブがあって、アーツ有りはアーツ専用ってとこか」


「うーん、アーツ有りも今回の【歩術】みたくパッシブ効果が含まれてるのもあるねー」



 あんま細かい所まで意識する必要もないか。決めるのはこれだけか?



「パラメータみたいなのってないのか?」

「パラメータはマスクデータだねー、その人の行動に合わせてレベルアップ時に自動で割り振られるよー」


「見れないのか、じゃあこれで終わりか」

「そうだねー、じゃあがんばってねー。応援してるよー!」



 雑だな!? あ、視界がぐるぐる……










 鳥の鳴き声、噴水の音に、街のざわめきが聞こえる。視界が戻る。質素な町の風景、最初の町の広場ってとこか。


 それにしてもまともな説明無しに放り出されたな。下調べしてない俺も悪いかもしれんが。



「……み…………きみ、そこの君!」

「え、あはい。なんですか?」

「君、異界人だろ? 冒険者ギルドに案内しようと思ってな」



 親切なおっちゃんが世話を焼いてくれるらしい。でもギルド登録とかしたら人殺しがしにくくなりそう。ギルドの監視とかで。断るか!



「すみません、待ち合わせがありまして。他の人と行くので大丈夫です」

「お、そうだったか! 余計なお節介だったな! じゃあまたどこかで会ったらな!」

「あっ、はい」




 よし、行ったな。


 俺も治安の悪い所に行くか。定番の路地裏にしよう。


 でもどんなプレイでいこうかな? 悪の親玉はしっくりこないしな。

 んー、主人公に立ふさがるライバルRPか? それとも主人公をおちょくる凶人RPか? 影で悪いことしてる終盤で裏切る仲間RPとか? うーん………………悪いやつを従えるなら……黒幕、とか?


  なかなかありだ。他に思いつかないしそれにしよう。黒幕といえば何か立派な目的があるよな。何にしよう?



「おい! そこのガキ! 見ねえ顔だな、持ってるもん全部置いてけや!」

「ん? ああ、チンピラか。今考えるのに忙しいんだ、あとにしてくれ」


「舐めてんのか! その小汚い服に、手ぶらなやつといえばこないだまでいた異界人だろ! お前らは何か隠し持ってるんだろ? さっさと出すもん出せや!」



 最初の獲物は路地裏チンピラに決定。


 まずは武器だな。ストレージには……初心者武器セットってのがあるな。これから選ぶのか。


 とりあえず片手剣にしよう。

 よし、油断せずに確実に殺そう。右手で片手剣を持ち、



「ッッ!?」



 頭めがけで全力で振り下ろした。いいね、フラフラしてる。じゃあ、もう一発!



『レベルが上がりましました』


 お、死んだっぽい。死体まで残るのか。ストレージにしまえるか?

 無理だった。解体すればしまえるかな? 解体の仕方なんて分からんし、とりあえず関節でへし折って分けとくか。




 これで……お、しまえた。どれどれ……[人の頭]か、そのまんまだな。でも分ければしまえるなら完全犯罪とかしやすそうだな。


 てか、普通こういうゲームって倒したら、ポリゴンになったり、血の代わりになんかそういうエフェクトが出るもんかと思ってたんだが。めっちゃリアルだな。


 さすが異世界と謳うだけある。レベルも上がってるし、ステータス見てみるか。

「ステータスオープン」




 プレイヤーネーム:――――

 種族:人間?

 レベル:2

 特性:変人・凶人

 HP:40

 MP:40

 スキル:□□・隠密1・歩術1・成長促進1





 名前決めてなかった。キャラメイクの時なかったはず。


 名前、名前なー、黒幕になって笑われないかっこいいやつ……本名の黒川くろかわ こうから取ってクロとか? 被ってそうだな。入れてみるか。あ、いけた。




 プレイヤーネーム:クロ

 種族:人間?

 レベル:2

 HP:40

 MP:40

 特性:変人・凶人

 スキル:□□・隠密1・歩術1・成長促進1




 うん。いつの間にか知らないスキルあるけど、なかなか様になってるんじゃないか?


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