第9話・壁ドンですが何か?
「なあ。マリカ。きみさえよかったら俺たちと一緒にヴァルツベルグ皇国に来ないか? ヴァルツベルグ皇国なら魔法導師団があるし、ハンスの他にもきみの魔法を解読するのに長けている者が何人かいる」
「ハインツ。あなた方に迷惑をかけてしまって大変申し訳ないと思ってるわ。でもわたしアイギスを残してはいけない。だからもういいわ。これでお別れしましょう。今までありがとう」
わたしは深く一礼した。ふたりにはこれ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。ふたりはヴァルツベルグ皇国からパルシュ王国に向かう旅の途中で猫になったわたしを拾い助けてくれたのだ。
ふたりは特に急ぐ旅ではないからと一か月もこの宿屋に留まり続けている。路銀のこともあるしわたしの秘密厳守の為に部屋も大部屋にしてもらってるしふたりにはこれ以上、甘えられないとわたしは思っていた。
「こちらの宿代はスワンヘルデ城に請求して。城の者には話をしておくから」
「宿代なんかは気にしなくていい。お金なんかは国から幾らでも支給してもらってるから心配はいらない。きみはここを出てどこに行くというんだ? まさかスワンヘルデ城に戻るとでも?」
踵を返しかけたわたしとかなりの距離をとりながらハインツが後を追ってきた。壁をどん。と、打ち付けられたがそれはどうみても間抜けだ。
わたしの居る位置からかなり離れて、彼は宿のドアの横壁に手をついていた。わたしを外に行かせないように出口を封鎖したのは素早い反応だったと思うけど、ドアを相手に壁ドンしてどうする? その彼の背後からわたしが壁ドンしたまま固まった彼を傍観してる状態になっている。
「パルシュ国王は、きみを死んだと公表したんだぞ。そのきみがいま城に戻るのは危険だ」
きみだってそのことは分かってるだろう。と、ハインツの瞳がドアに向かって語っていた。
(わたしここ。もしも~し、ハインツどこ見てますか?)
あれは意地でもそのまま続けるつもりだ。わたしの前で失敗しただなんて認めたくないらしい。
色男って時に無駄に演出したくなるのね。わたしは溜息を付きつつ言った。
「でも……、わたしが城に戻ればアイギスの疑いは晴れるわ。わたしが生きていた事で」
「あの執拗なパルシュ国王がきみを死んだことにしたのには何か思惑がある。きみが戻っても意味はない」
ハインツはようやく背後のわたしを振り返った。会話は普通に続いていた。
「ハインツ。行かせて。お願い」
「危険だ。きみを行かせはしない」
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