第43話
「あれ、この時間に研究室から出て来てるなんて珍しいですね」
キュアノス島の家に帰ってくると、最近はご飯を食べるか寝る時間以外研究所に篭ってるカナデさんが書庫で漫画を読んでいた。
「私だってたまには休憩するよ?それよりコウダイくんに渡しておきたい物があったから丁度良かった」
そう言ってガラス瓶に入った見るからに危ない液体を手渡された。
なんか液体が沸騰してるみたいにグツグツしてるし…。
これガラス瓶も普通のじゃないよね。
普通のガラス瓶だったら簡単に溶けてるだろう。
「この間、お土産に持ってきてくれた強い毒性を持った水晶から作った激毒。それはグラトニーだけに効くとか便利なものじゃない。使う時は気をつけて使ってよ」
今までの物より効き目は凄いけど。グラトニーだけでは無く、ほかの物まで溶かしてしまう激物らしい。下手したら味方に大打撃与えちゃう可能性もある。
1人で戦うことが多い俺だから俺に渡したのか。
使う時は念の為ガスマスクしておこう。
「ありがとうございます。ここぞという時に使わせて貰います」
「本当は触れたものしか効果が出ない様にした粉末状のやつも有るんだけど。コウダイくんは液体の方が使いやすいでしょ?」
もっと性能がいい物自体は作られてるのね。
まぁ、俺からしたら液体の方が使いやすいのは確かだ。
「ちなみにニーズさんに毒を使ったりはしないんですか?」
神獣ニーズヘックの毒なんて最強兵器だからな。
「無理無理。あんなの人間が扱えるものじゃないコウダイくんだってそんなの分かりきってるでしょ?」
いやまぁそうだよね。あの毒はニーズさん本人以外使いこなせないだろうな。
「ですよね〜。ほぼ不老不死の体を創り出したカナデさんなら或いは…ってちょっと思ったんですよ」
「私は全知全能の神じゃ無いんだよ?」
そりゃそうか。
これ以上はカナデさんが漫画を読む邪魔をするのは良くないなと思い、書庫を後にした。
「さて、この後は何をしようかね」
今日やることは全部終わったし、何をしようか考えながら廊下を歩く。
「あっ!先輩。暇してるんですか?暇してるんなら私に構ってください」
廊下を歩いているとアイに声をかけられる。
何をするか何も思いつかなかったし、丁度良いか。
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「で、なんで模擬戦をする事になってるの?」
アイに連れられてこられたのは訓練場で、何故か木刀を持たされて模擬戦をする事になっていた。
「先輩とは最近模擬戦できて無かったので良い機会かなって。それに研究所にこもりっぱなしだったからちょっと体がなまってるんです」
アイも割と武闘派だよね。体がなまってるからって別に模擬戦する必要無いでしょう。
ランニングマシンとかベンチプレスみたいな筋トレ器具をつくればそれで運動してくれるかな?
「じゃあ、始めましょう。私が金貨を空中に投げて地面についたら勝負開始です」
そう言ってアイは金貨を宙に投げる。
ここまで来たら、もう逃げるのは無理だな
木刀をしっかり構える。
金貨が地面についた瞬間、アイが地面を強く蹴って距離を詰めてくる。
アイの武器は短めの双剣、普通の双剣より更にレンジが短いので距離を詰めないと話にならないしね。
「思考加速を使ってようやく太刀筋が見えるって、どんな速度で剣を振ってるんですか」
「ステータス差だから仕方ないね。寧ろこのステータス差で太刀筋が見えてるのが凄いと思うよ」
アイのスキル思考加速のおかげで見えたんだろうけど。俺とアイのステータス差は軽く倍以上有る。普通は太刀筋なんか見えない。
「まぁ精霊のハーフだし魔法ステータス特化だから。これでも遅い方なんだけどね」
「ほんと、やになっちゃいますね。まだまだレベルをあげないと話にならないって事ですね。剣術縛りの先輩になら割と普通に勝てるぐらいにならないと、足手まとい以前に戦闘員として頭数に入れて貰えないのに先が長そうです」
剣術しか使えない模擬戦だと普通に負ける。
剣の才能無いからね。
まぁ、適度に負けるおかげで天狗にならずに済んでるのかもしれないけど。
おしゃべりしている間にも双剣の手数を活かして、こちらに攻撃させない様に連撃を繰り出す。
「剣だけで捌き切るって難しい」
剣の才能で言えば確実にアイの方が上だな。
と言ってもまだ負ける訳にはいかない。
と言っても今の俺にできるのは防御に徹してアイのスタミナが切れるの待つぐらいしかないけど。
ほんともうちょっと剣の才能があればな。
「先輩は攻撃は全然ですけど。防御が妙に上手いのが厄介です」
少し息が乱れてきたアイが悔しそうにそう言った。
そろそろ体力の限界みたいだ。
今まで受け流す様に防いでいた双剣の攻撃を木刀で弾くように防いでアイの手から双剣を飛ばす。
「何とか俺の勝ちだね」
「また負けたー。いつになったら第1形態の先輩に勝てるようになるんだろう」
第1形態ってなんだよって突っ込もうとしたら、もの凄い殺気を感じ咄嗟に転移魔法を使ってアイと一緒にその場を離れる。
「オイオイ、まだ2週間たって無いはずだぞ」
さっきまで自分たちがいた場所を見ると、砂を固めただけの訓練場の地面が金属に変わっていた。
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