第22話
「犬? いや、野生だから狼か?」
まるで狼が野生の犬のような言い方をする秋雨だったが、状況的にはそれほどのほほんとしているような場合ではない。
草むらから現れたのは三匹の狼だった。
尤も、ここは異世界であるからして、秋雨の元居た世界のように動物的な狼ではなく、当然モンスター的な狼である。
「おっと、鑑定しなきゃな。なかなか初めての物に対して鑑定するという行為が癖付かないな」
そう独り言ちながら、目の前に現れた三匹の狼のモンスターの内の一匹を【鑑定】に掛けた。
【フォレストファング】
ステータス:
レベル4(ランクF)
体力 60
魔力 2
筋力 10
持久力 9
素早さ 15
賢さ 5
精神力 10
運 0
スキル:連帯行動Lv1、逃走術Lv1、かみつきLv1、ネイルスクラッチLv1
「……弱くね?」
秋雨がそう思うのは、無理もない事である。
何せ、体力と魔力が10万もあり、他のパラメーターが1000もあるのだ、それに比べたら目の前にいる狼など雑魚以外の何者でもない。
だが、他の駆け出し冒険者の名誉のために言っておくが、今秋雨の目の前にいるフォレストファングは、Fランクに属しているモンスターで、駆け出しであるGランク冒険者にとっては一匹でも危険な相手なのだ。
それが三匹もいる時点で、十二分に危機的な状況であった。だからこそ、秋雨の鑑定結果の感想である“弱くね?”はあくまでもGランク冒険者としての感想ではなく、彼個人の主観であると言っておく。
今の彼に恐怖や危機感という感情は一切ないが、これが普通の駆け出し冒険者であれば、あまりの恐怖に様々な穴という穴からいろいろなものを垂れ流していたであろう。
「グルルルゥゥ……」
秋雨の事を獲物だと判断しているのか、それとも脅威と見なしているのか、フォレストファングの一匹が低いうなり声を上げ威嚇する。
「ちょうどいい、この木剣を試すいい機会だ」
秋雨はそう呟くと腰に下げていた木剣を引き抜くと、片手で持ちながら正眼に構えた。
それを戦闘開始の合図と受け取ったのか、三匹の内の一匹が秋雨に向かって突進してきた。
「グァァアアア」
口を大きく開け、秋雨の身体に牙を突き立てようとするも、それを彼が黙って許すはずもなく、フォレストファングの攻撃を見切り側面に回り込む。
そのまま木剣を振りかぶると、首と胴体の付け根部分に狙いを定めそのまま勢いよく振り下ろした。
――スパァンッ。
秋雨が放った木剣の一振りは、何の抵抗もなくフォレストファングの頭部を胴体から切り離す。
それと同時に勢い良くどす黒い血飛沫が飛び散り、草で覆われた地面を赤黒く染め上げる。
その見事な攻撃に、さぞかし秋雨も誇らしげな顔を浮かべて――。
「うわぁ、引くわぁ……めっちゃ引くわぁ……」
……浮かべてはいないようで、むしろヒクヒクと顔を引きつらせていた。
以前盗賊に攻撃を仕掛けた時の反省点を生かし、今回の攻撃も当然手加減していた。
だがそれでも力のセーブが上手くいかなかったのか、襲ってきたフォレストファングの頭部と胴体を分断する結果となった。
「でもまぁ、頭が残った事を鑑みれば大きな進歩と言っていいのかもな、加減無しで斬ったら間違いなく頭が爆散するだろうしな。まったく、俺はどこのスプラッターマシンだ? ジ〇イソンじゃねえんだぞジ〇イソンじゃ?」
今回の結果を客観的に考察する秋雨であったが、明らかなオーバーキルであろう結果を見て、自分が一体どこに向かっているのだろうと自己嫌悪に陥りそうになっていた。
「まあまだ二回目だしな、慣れて行くしかないか……」
そう独り言ちた秋雨は気を取り直すといった感じで残り二匹のフォレストファングに向き直った。
秋雨が考えを巡らせている間、フォレストファングたちが襲ってこなかったのは目の前で起きた光景に呆然としていたからだ。
フォレストファングからしてみれば、“獲物を見つけて狩りをしようとしたら、仲間が首をちょんぱされてました”というどこかラノベのタイトルのような状況になっていたのだ。
しかも仲間がやられた相手を見れば、見た目は駆け出し冒険者にしか見えない15歳の少年がそれをやってのけたのだ。
だが、フォレストファングたちとて弱肉強食の野生の中で生きているのだ、すぐに次の行動に意識を向けた。
この時点で二匹のフォレストファングが撤退を選択していれば生き残ることができたのだが、知能の低い彼らではそれを理解することはできなかったのであった。
「じゃあ、次はお前だ」
「グルゥ?」
木剣の切っ先を突き付けられたフォレストファングは、秋雨の行動を理解できず首を傾げる仕草を取る。
だが、行動自体の意味を理解できないまでも、秋雨の態度から挑発されていることは感じ取ったらしく、愚直にも彼に向かって突進していく。
しかし、それは先のフォレストファングと同じ選択を取るという悪手であり、当然その結果というのは……。
「よし、これで二匹、残りは……お前だけだ」
「グ、グルルルゥゥ」
先のフォレストファングと同じく、頭部と胴体が切り離された死骸がもう一つ出来上がってしまっていた。
他の仲間二匹が鎧袖一触に切り捨てられたのを見て、最後のフォレストファングが弱気なうなり声を上げる。
そして、ここで初めてフォレストファングは、自分がちょっかいを掛けてはいけない人間を相手にしたという事に気付き、踵を返して撤退行動を開始した。
――シュンッ。
「ワ、ワォン?」
「はっはっはー、何処へ行こうと言うのかね? 犬ちゃん、いや狼ちゃんか」
だが時すでに遅しで、逃げようとするフォレストファングを秋雨が見逃すはずもなく、某有名RPGよろしく“しかしまわりこまれてしまった”状態になっていた。
その後、そのフォレストファングがどうなったのかは、言うまでもない事だろう……。
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