第22話 ミミズは苦手

「キ、キモーッ!」


 その大きな穴から飛び出してきたのは、柔らかそうなブヨブヨの巨大ミミズだった。

 ヌラヌラとした液体を撒き散らしながら、その巨大ミミズは三人の前に塔の如くそびえ立った。

 ロックブラックとペーパーホワイトの二人は巨大ミミズの気持ち悪さに身を震わせながらも、飛んでくる液体を避けていた。


「うわぁ! マジで無理!」


 ロックブラックが表情を引き攣らせながら自分の体を抱きかかえた。


「キモッ!」


 いつもは丁寧な言葉遣いをするペーパーホワイトが、この時ばかりは乱雑な言葉遣いで巨大ミミズを罵倒した。

 二人は延々と降り注ぐ液体から逃れるため、巨大ミミズから距離をとった。


「ペーパーホワイト、大丈夫?」

「私は大丈夫です。ロックブラックは?」

「私も大丈夫!」


 二人はお互いの安否を確かめた後、声を揃えて言った。


「「シザースグレーは?」」

「……」


 返事がなかった。

 ロックブラックが周りを見渡すと,シザースグレーが立ち尽くしているのを見つける。


「あれ。シザースグレー?」


 ロックブラックと同様に、ペーパーホワイトもシザースグレー見つめた。

 二人はさらに首を傾げる。

 二人はシザースグレーの安否など、確かめる必要がないと思っていた。

 それはシザースグレーの実力が自分たちの実力を何倍も凌駕しているからであり、『自分たちが避けられたのだから、シザースグレーは当たり前に避けているだろう』と勝手に考えていたからである。

 だから、気づくことができなかった。

 シザースグレーが巨大ミミズの姿を見た瞬間に、泡を吹いて気絶したことに。

 巨大ミミズの姿を見て意識を失ったシザースグレーは、撒き散らされた体液を避けることができずに、ドロドロのビチャビチャにされていた。


「シ、シザースグレー!?」


 ロックブラックが、体液でぬらぬら光っているシザースグレーに駆け寄る。


「シザースグレ……うわ、ヌタヌタ……」


 体液の感触と臭いに吐き気を催しながらも、シザースグレーに付いた体液を手で拭き取り、そして抱きかかえて距離を取った。


「か、完全に白目剥いてる!?」


 シザースグレーのことを揺らして起こそうとしたのだが、どれだけ強く揺らしても彼女が起きる様子がなかった。

 そこへ、巨大ミミズのボディプレスが繰り出される。

 彼女たちはそのボディプレスを寸前で避けた。


「ロックブラック」


 ペーパーホワイトが口を開く。


「これは、私たち二人で対処しないといけませんね」


 シザースグレーは目を覚ましそうにない。

 シザースグレーがこんなにミミズが苦手だなんて、彼女たちは知らなかった。

 意外な弱点である。


「そうだね。頑張るしかないね」


 そう言って、二人は武器を構える。


「いつまでも、シザースグレーに頼っていられない! このキモデカミミズは私たちだけで倒すよ!」

「はい!」


 ●


 巨大ミミズは穴から飛び出て、その体を空高くそびえ立たせていた。

 その巨体によるボディプレスは単調な攻撃でありながら、即死レベルの攻撃力を持つ一撃だった。

 動き自体はそこまで素早いわけではない。現に今も、空高くそびえながらプルプルと震えるばかりである。


「私たちで倒すと意気込んだのはいいけど、こんなやつどうやって倒せばいいの?」


 ロックブラックが引き攣った笑みを見せる。その巨体はどこを攻撃していいものか判断できないほどの巨体であった。


「試しに体をぶん殴ってみればいいのでは?」

「適当に言ってる?」

「適当ですけど、それしかできないというのも事実です」


 ロックブラックはペーパーホワイトの言葉に「確かに……」と引き攣りながら頷くと、地面を蹴って巨大ミミズに接近した。


 巨大ミミズの根元、地面から数メートルのところをロックブラックがぶん殴った。


「オラァ!」


 しかし、巨大ミミズにダメージが通っている気配はない。


「駄目だ! しかも意外と皮が硬い! その上ヌメヌメしてて上手く衝撃を伝えられない!」


 ロックブラックは叫びながら距離をとった、そこへ巨大ミミズのボディプレスが迫った。


「危なっ!」


 ロックブラックは素早く地面をかけ、そのボディプレスを避けた。


「私に任せてください!」


 ペーパーホワイトは紙で作られた矢印型の槍を巨大ミミズに向けて放った。

 その槍は、巨大ミミズの体に突き刺さりはするものの、ダメージにはなっていないようだった。


 ボディプレスで体を倒していた巨大ミミズが、そのまま横にスライドしてペーパーホワイトを横薙ぎに襲う。

 ペーパーホワイトはそれを紙飛行機に乗って避けた。


「ダメです。分厚い皮に阻まれてダメージを与えられない」


 ペーパーホワイトはロックブラックのそばに降り立ち、体を寄せた。


「やばいね。倒せる気がしない」

「そうですね。相手の動きが遅いので、気を抜かなければやられる心配もなさそうですが、このまま暴れられると困ります」


 戦闘場所は学校の校庭である。巨大ミミズが暴れて校舎を破壊でもしたら大問題だ。


「どうしよう」


 ロックブラックは活路を見出すことが全くできそうにもなかった。

 その時だった。彼女の視界の端に、未だ泡を吹いて倒れているシザースグレーが写った。

 ロックブラックは徐々に体を起き上がらせる巨大ミミズを見ながら呟いた。


「シザースグレーなら、このミミズをどうやって倒すかな」


 ペーパーホワイトが泡を吹いて倒れるシザースグレーを見る。


「シザースグレーなら……」


 二人は少しの間考える。

 そこへ、巨大ミミズのボディプレスが襲いかかった。二人はそれぞれ逆方向にボディプレスを避けながら、同時に叫んだ。


「ペーパーホワイト! コンビネーションだ!」

「ロックブラック! 合体技です!」


 二人はお互いの顔が巨大ミミズの体で遮られるまで、見つめ合った。それだけで意識の共有はバッチリである。

 ペーパーホワイトが紙飛行機に乗って、巨大ミミズの上を飛んだ。そこへ、ロックブラックが着地する。


 ペーパーホワイトは空を飛びながら先程と同じ槍を作り出した。

「ロックブラック! 私の槍はかろうじて敵の体に突き刺さります! 敵の身体がヌメヌメで殴れなくとも、私の槍を殴ることはできるでしょう!?」


 その言葉にロックブラックは強く頷いた。


「任せて! 釘打ちの要領だね!」


 二人は顔を見合わせて笑った。


「では、いきます!」


 そう言うと、ペーパーホワイトの槍がボディプレスをして地面に横たわっている巨大ミミズの身体目掛けて射出された。


「行ってくる!」


 ロックブラックはそう言うと、槍に続いて紙飛行機の上から飛び降りた。

 槍が巨大ミミズの体に突き刺さる。しかし、そのままでは皮に刺さっただけで、ダメージにはなっていなかった。


「オラァァァ!!!」


 その槍を、空から飛び降りたロックブラックが釘打ちの要領で打ちつけるようにぶん殴った。


「貫通しちまえッてんだァァァ!」


 ブチンと大きな音が鳴り、ペーパーホワイトの紙の槍が、巨大ミミズの皮を突き破った。

 しかし、まだ体を貫通したわけではなかった。


「オラオラオラオラオラオラ!」


 そこへ、ロックブラックの連撃が加えられる。


「オラァ!」


 そして、ドスンと言う音とともに、槍が巨大ミミズの巨体を貫通し、地面に突き刺さった。

 巨大ミミズはバタバタと体をくねらせ痙攣した後に動かなくなった。

 ロックブラックは槍の上に着地すると、消滅を始めた巨大ミミズを見ながら顎の汗を拭った。


「倒せた……」


 シザースグレーの協力なしに、強大な敵を退けた。ロックブラックの元へ紙飛行機に乗ったペーパーホワイトが近づく。


「ロックブラック」


 ペーパーホワイトが話しかけると、ロックブラックはニカッと笑ってガッツポーズをした。


「ペーパーホワイト。やったね!」


 ロックブラックが拳を突き出す。ペーパーホワイトはその拳に自分の拳をぶつけた。


「やりましたね」


 そう言って微笑んだ。

 二人は見事なコンビネーション、もしくは合体技で巨大ミミズを倒した。

 シザースグレーは、ミミズの気持ち悪さに泡を吹き、白目をむいて倒れているだけだった。

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