第60話【レオン視点】
どうもみなさんこんにちは。
嫌なことは全部他人にやって欲しいレオンです。だって人間だもの。
俺には憂鬱な言葉がある。その最たるが労働だ。
そして労働とセットで付き纏うのが税金である。
所得税、住民税、社会保険税、年金。
収入の三十〜四十、なんなら五十%持っていかれることも珍しくない。これでは『社会』のために働いているのと同義。
そう理解したのは転生する直前だった。
脱サラを想定するため、税金や社会保険について調べていた俺は国民皆保険制度の完成度に感嘆したことがある。
まずケガ・病気の自己負担は三割である。
七割が保険が支払われるのだ。
さらに!
高額療養費制度により自己負担の上限額まで設定されているという。
この制度を調べ直したとき、俺は思った。
嫌なことは全部大人に押し付けよう!
なにせ退職後の心配は『飢え』と『健康』の二つだ。そのうち健康は前述のとおり、三割の負担――しかも上限ありときた。所得が低くなれば低くなるほど負担も少額となる。
これが国民『皆』保険の素晴らしさ。
この制度が実在しているおかげで世の中にはやりたいことや夢を追い続けられる人がいる。
保険でまかなわれる財源は働く大人たちから徴収しているからだ。
俺が転生した異世界――少なくとも王国内は、
①医療が発展途上
②自己治癒力を高める法医術が存在
③恩恵を受けられるのは裕福層
④国民皆保険はない
という状況だ。
そして今回女王レティファからの依頼は『財源不足』の解消、聖女エリスからは法医術の一般階級の浸透ときた。
ぶっちゃ二人の試練は俺には手に余る。こういうのは政治や文官がチカラを発揮する分野だ。美女や美少女たちに養ってもらうことしか考えていないヒモには荷が重い。
俺はセクハラしか能のない変態ドスケベだ。いつ響さんに切り捨てられるかわからない。切り捨てるは『捨て去る』という意だが、俺の場合、物理的に切り捨てられる恐れがあるわけで。
肉を切られたら出血多量になるだろう。「なんじゃこりゃぁぁぁぁ」と叫びながら倒れることになるかもしれない。しかも俺は平民である。本来は法医術の恩恵を受けられない身分。
もしこのままだと全額自己負担――いや、そもそも法医術を受けられず、「尻を撫でる。ただ、それだけでよかったんです」が遺言になるかもしれない。
これはいけない。なにせ俺は魔術を始めとした戦闘は万年Eランクである。Web小説定番の『実は隠された能力が――』というお約束が果たされないままオジさんに足を突っ込み始めた無能である。あかん、凹む。マジでどうなってんねん俺の異世界転生は!
そんな俺はこれからどんどんドスケベジジイに――そして年齢を重ねるごとに肉体も朽ち果てていくことになるだろう。
仮に奇跡的に童貞を卒業できる機会が転がり込んできたとしよう。いや、自分で奇跡的にとか思っている時点で泣き出したくなるほど情けないが――でも死ぬまでにはエッチがしたい。
おそらく俺は女の躰を知ってしまったら猿と化すだろう。朝昼関係なく、一日中盛り、節操なく行為をねだるに違いない。
時と場合によってはピストンのし過ぎで腰をいわしてしまうかもしれない。
そうなったとき、「平民なので法医術は受けられません」では困る。
前世と違って一瞬で治癒できる神秘が存在するにも拘らず、その恩恵を受けられず、覚えたてのそれを取り上げられてしまう。これでは生殺しである。お預けは嫌だァァァァ!
もし――もし響さんとそういう関係になることができたら誇張でもなんでもなく、ずっとヤり続ける日々を送ることになるだろう。
体力回復、自己治癒能力の向上、精力向上――それらの観点から考えても俺命名『国民皆法医制度』は必須といえる。
というようなことをバカ正直に打ち明けるわけにはいかない俺は必死に足りない脳みそを振り絞る。
考えろ……! 考えるんだ……!
相手は女王と聖女。そしてドM疑惑が浮上したハイエルフ。
生半可な芝居では太刀打ちできない。ならば想いを――欲望を――忠実にぶつけるしかない。
ただれた生活――いや、性活を送るためには『国民皆法医制度』は必須だということを思い知らせるためには。
「レティファ。私は平民だ」
「存じ上げておりますわ」
「王国内では貴族や裕福層よりも平民が圧倒的に多いことは言うまでもない」
いつの時代、どこの世界でも国を支えているのは国民である。それは不変だ。
「まして魔術や錬金術、法医術――神秘に分類されるチカラを持つ者はごく少数だ。そしていつだってそれらの恩恵を受けられるのは富と地位がある者たちだけ。私はその現実にいつも疑問符を浮かべてきた」
これは本音。魔力持ちという幸運にこそ恵まれたものの才能や身分の違いに悔しい思いをしてきたことも一つや二つじゃない。
中でも『俺TUEEE』を諦めなければいけないことを悟ったときは泣いた。
「……はい」
「私もそう思います」
まるで心酔しているかのような恍惚な表情で俺の言葉に耳を傾けてくれる二人。
孤児として過ごした女王と平等・公平・誠実を体現したかのような聖女である。
俺の聖人ムーブ――言動に聞き入ってしまうのも無理はないだろう。おそらく彼女たち二人にとっても神秘の恩恵を一般階級に浸透させることは悲願だ。
法医術を性機能増強代わりに制度を立案している俺とは大違いである。すまん。変態ドスケベ監督でマジごめん。でも俺、生涯現役でいたいからさ。面倒事しか増えない地位もご免だし。こうするしか――ないんだ!
恨むなら変態ドスケベおやじを
二人のことはぶっちゃけエロい目でしか見れん。本当にドスケベでごめん!
「問題は貴族の反発をどうやって抑えるか、ですね?」
とセレスさん。
「それと私があい、どる……? になることと関係あるのでしょうか?」
続いてエリス。
ふへははははは! よくぞ聞いてきれた! もう一度おさらいしておくが前世の『国民皆保険制度』の素晴らしいところは働き続ける大人から徴収したお金でまかなわれているという点だ。すなわち己の代わりに働いてくれている大人たちのおかげでその
「セレス。これを二人に」
胸ポケットから羊皮紙を取り出す。
「……!」
呼び捨てするだけでビクンビクンと身体を震わせるセレスさん。俺が取り出した羊皮紙を魔術で複写し、彼女たちの前に差し出す。
「『国民皆法医制度』を実施していくためには資料に記載されたとおり、課題がある」
課題
①貴族の反発
②新たな税金導入による反発
③税負担率の設定
「エリス。法医術は触れなくても発動できると聞いたことがあるが本当か」
「えっと『天使の唄』ですか? 耳にできる範囲で付与できますけど効果は低くなります」
「レオン様。まずはアイドルという概念について詳細を説明された方がよろしいかと」
「セレスさんの言う通りだな。アイドルというのは崇拝される人。熱狂的なファンを持つ人物のことを指す。歌と踊りでファンを魅了し、成長過程を共有するアイドルグループを立ち上げようと考えている」
「……申し訳ありませんがもう少し具体的にお願いしてもよろしくて?」
「課題①貴族の反発はエリスをリーダーに結成したアイドルグループのファンになってもらうことで取り込む」
「「「!!」」」
レティファ、エリス、セレスの目が見開かれる。だが、まだだ。まだこんなもんじゃない。
「一般階級に法医術を浸透――彼らの目には当初こそ異端として写ることになるだろう。しかし何事も懸命な姿は人の心に響く。想いを歌に乗せれば必ず応援したいと考える者が現れる。それが
「……いくつかの段階があるということですね。続きをお伺いしても?」
「わたくしもレオン様がお考えになられていることをお聞きしたいですわ」
「私もです!」
「結成するアイドルグループには序列を設けるつもりだ」
「「「えっ?」」」
「『国民皆法医制度』の財源は主に貴族や裕福層たちグッズ購入費だ。年に一度アイドルグループの待遇や給金などの条件が一変する『序列決定戦』を行う。これが私が考える『
以上が俺の計画の全貌だ。
アイドルグループを卒業後は教会などで法医術に集中するのもいいだろう。
どちらかと言えばアイドル活動は法医術の浸透のための呼び水だ。
俺の提案に女王とレティファは顔を見合わせたあと、感情の読み取らない表情を浮かべていた。
正直に言えばアイドル云々はもう完全に俺の趣味である。
アイドルの衣装を作って、エリスに着させたいだけと言っても過言じゃない。
ちなみに歌の作詞はスピアちゃんに任せればいい。そっち方面の才能は抜群だ。
「二人の答えを聞かせてくれないか」
「やらせてくださいレオン様! 私、頑張ります!」
「わたくしもですわ!」
だーはっはっは! やった! やったぜ!!!! アイドルマスターレオンP編開幕だ! ミニスカ、ミニスカ! サービス、サービス!!!!
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