第29話、エリスはモノじゃない

 俺は当分の間、仕事にはいかずにエリスの傍にいることにした。

エリスが笑顔になるものを、何か考えてやらないと……

俺でも作れて、何か幸せになるようなもの。

さんざん考えてプリンを作ることにした。

牛はいないので、ヤギのミルクを代用する。

玉子は売ってるし、砂糖もある。


 作り方はよく覚えてないが、よーくかき混ぜながら温めればいいだろう……

それを湯せんで温めるんだったよな。

で、出来上がったのを冷やす。

見事にすがたってしまったが、とりあえずできた。


「何を作ったの?」


「まあ、食べてみてくれ」


「こ、これ、美味しい」


「やっと笑ったな」


「えっ」


「美味しいものを食べると、自然と笑顔になるだろ」


「おじさん……」


 向こうに戻れたら、スイーツの本を買って、いろいろと作ってやろう。

砂糖や生クリームも、いっぱい買ってきてやろう。



「ご主人様、オネエ様がお見えですが」


「ああ、来たか。じゃあ外で対応しよう」


 俺は玄関先でオネエと対峙した。


「エリスが来てるわよね」


「ああ」


「エリスは私のものよ」


「エリスはモノじゃないんだ」


「ともかく返してちょうだい」


「ダメだ。本人が出ていくと言わない限り、エリスはここにいる」


「……じゃあ、売ってあげる」


「金貨2000枚はどうしたんだ」


「そんなのもうないわよ」


「エリスを買おうとは思わない。

だが、仲間だったからな金貨20枚やろう」


「そんなんじゃ足りないわよ!

そうだ、グラビティーロッドをちょうだい。それでいいわ」


「あんなものどうするんだ」


「どいうでもいいでしょ」


「わかった。その代わりここへは二度と来るな


「わかってるわよ……」


 オネエは金貨20枚とグラビティーロッドをもって帰っていった。

オネエを見るのはこれが最後になるだろう。



「大丈夫。オネエはもう帰った。

ここへは二度と来させない」


「ごめんなさい。私のせいで……」


「いいさ、元々は俺とエリスのパーティーだったんだから」


 エリスはその日から歩く訓練を始めた。

最初はバランスを崩していたが、二日三日と続けるうちに何とかさまになってきた。

義足はベルトでとめてあるため、その部分が赤く腫れあがっていた。

俺は、マッサージをしながら赤く腫れた部分を冷やしてやる。


 俺たちは街へ出て、丈の長いスカートとブーツを買った。

金髪のエリスには黄色がよく似合う。


「これなら目立たないだろう」


「うん、ありがとうおじさん」


 俺たちはカフェでお茶を飲み、恋人同士のように他愛もない話をした。

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