第4話 今日の心音は出掛けたい②
「早速だけどー......今から一緒に遊びにいかない?」
そう言うと、京乃さんは僕の手をとり、立ち上がらせて後ろのドアから、廊下へ飛び出した。
「こらっ!京乃!ついでに晴喜田......?戻ってこい!残りのものは全員自習だ!」
「ええっ。俺の立場はどうなんねん。ちょっと~戻ってきてくださいよ、先生!」
可哀想に......僕は転校生Bくんに心の中で頭を下げる。それはそうと先生は担任なんだから不登校とはいえ名前くらい覚えててくださいよ......
「ちょっと、何やってんだお前は」
「おいっ、聞いてんのか」
声をかけるが京乃は気にも止めていないのか、他に何か考えているのか、僕の話を聞かずに走り、ついに階段を走り降り始めた。僕は京乃に抵抗しようとしたが、転びそうになったので、仕方なく彼女にあわせようとする......が、あまりにも京乃は階段を降りるのが速い。見ると京乃は一段飛ばしで階段を駆け降りている。人生の中で初めて、何か運動しとけば良かったと思った。
気づけば追ってきていた先生の姿は見えなくなり、1階にたどり着いていた。階段で誰か先生とすれ違わないかと期待したが、授業中ということもあり、1人としかすれ違わなかった。その先生も、止まれの一文字目を言う頃には京乃に抜かれていた。もう目の前には靴箱がある。彼女が靴を履き替える時が最後の逃げるチャンス。僕はそこに懸けた。
「こらっ!授業中に何してるんだ君たちは」
そんなときに、校長らしき人が目の前に現れた。
「おっ、校長っぽい人だー。ざっと計算して 体力1 攻撃30 防御1 スピード5 位かなー」
なに言ってるこいつ。その計算式があるなら教えてくれ。いや無いな、バカだし。てか基準がわからんがたぶん校長(仮)弱いな。
「どこへ行く!止まらんか!」
校長(仮)が靴箱の前に立ちふさがる。がこいつが止まるわけがなく......
「おっはようございまーす!」
そう言いながら、カバンの中から30cmほどの謎の猫(?)のぬいぐるみを取り出し、校長(仮)目掛けてぶん投げた。
「うおっ!」
しかし校長(仮)は、両手を伸ばし、目の前でそれをキャッチした。
「おいっ、止められたぞ!ってかよくそんなもんがこのカバンに入ったな」
自分のカバンを見ながらそう呟いた。通学カバンはそこまで大きくなく、最低限の必要物しか入れていない僕でも、他にあまり物は入りそうにない。ましてやこんなぬいぐるみが入るはずが......
「だって転校初日だから入れるものなかったんだもん!」
そう言いながら、京乃は右手を思い切り後ろに引いた。よく見るとその手からは白い紐がぬいぐるみに向かってまっすぐのびていた。そしてそのぬいぐるみは校長(仮)の手にあるわけで......次の瞬間校長(仮)は前に倒れ、ぬいぐるみは京乃の元へと戻ってきていた。
「よっしゃ!作戦どーりぃ!」
「ちょっと待て本当に校長だったらどうするんだ!?」
「私たちの道を塞ぐのならこうなるのはとーぜんなのです」
「いやなんでだ!?」
胸を張ってそう答える辺り彼女に反省と言う言葉はないのだろう。それよりこいつさっき荷物がないから人形つれてきたっていってたな...ダメだツッコミが追い付かない。考えることを放棄したところで、腕が思い切り引っ張られる。気がつくと、もう目の前には靴箱が立っていた。京乃から逃げるラストチャンスだ。京乃は外靴に手をかけ、反対の左手では上履きを持っている。京乃に気づかれないようにと僕はゆっくり後ろを向いた。すると目の前には
「うわぁぁっ!」
顔を赤くした担任が立っていた。結構差をつけていたはずなのに、息を切らすことなく追いついている辺りさすが体育教師といったところか。(うろ覚えだが......)と感心している場合ではないことを思いだし、逃げようと背を向けると、顔の横を先程の京乃のぬいぐるみが通り抜け、担任の顔にぶつかった。担任がよろけるのを確認すると、京乃は片手でぬいぐるみを回収しながら、もう一方の手で、僕の腕を掴み、
「靴!」
と叫び、腕を引っ張った。僕はその言葉を聞き、反射的に靴箱に手を伸ばすと、靴を手に取った。否、取ってしまった。そのまま京乃は腕を引っ張り、外に出ようとするが、
「逃がさんぞー!2人とも指導室行きだー!」
よろけていたはずの担任が無駄に身体能力を生かして飛びかかってきた......が難なくかわす......かわしたはずだった。担任は地面に手がついたとき、跳び箱を飛ぶかのようにもう一度飛ぶと、両手で僕の右足をつかんだ。僕はバランスを崩し、その場に倒れる。校舎の外で倒れたのでごつごつしたコンクリートで、体中がヒリヒリする。
「捕まえたぞ!指導室行きだ!」
京乃は必死に僕の腕を引っ張っているが、女子1人の力ではびくともしない。それどころか担任は、器用に体を動かし、校舎の方へと少しずつ戻っている。もともと京乃に連れていかれそうだったのでちょうどよかったが......
「先生。僕はこいつに無理やり......」
「連れていかれるところだったと?じゃあ右手に持っている物は何だ?」
「え......」
僕の右手にはしっかりと外靴が握られていた。
「いやちがっ...これは体が反射的に動いたと言うか......なんと言うか......」
終わった......弁明するのを諦め、言い訳を考える。が耳に入ってくるテンポの良い音に妨害される。イライラしてきて考えるのも諦めた。
「ったく。こんなときに誰が......校長っ!?」
イライラするこの音は担任の着メロだったらしい。もう少し違うものはなかったのか......。
「あれ?でも......」
京乃がそう呟く。そうだ、確か校長(仮)は京乃が倒したはずだ。校長がもう起きたのか?京乃が倒したのは校長ではなかったのか?もしくは......。
「は!?何を言っているんだお前は!?」
担任が急にそう叫んだ。驚いて思考が止まる。どうやら口調的に校長ではないらしい。担任が電話に出たことで、引っ張るのを止めたので担任の電話の近くに耳を近づける。
『......からぁ』
どこかで聞いたことのある声だった。
『僕もう飽きたんで帰りますねってとりあえず報告しときますー』
「はるくんあっち!」
京乃が指を指した方を見ると倒れた校長(仮)の隣でこちらに手を振りながら、たぶん校長(仮)から拝借したであろうスマホを耳に当てた転校生Bくんが立っていた。
『それじゃさよならー』
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