リア充生活を諦めない
くすり
プロローグ
たとえば、クラスの中でなんとなくイケてるやつがいるとする。
そいつは友達も多くて、もちろんそいつ自身もセンスがよくて校則違反ギリギリの洒落たアクセサリーとかをしているんだが、その周辺もなにやらオシャレな連中が集まっている。
そいつらのうち一人が、べつにオシャレなわけではない場合もある。こいつはサッカー部で、エース的なやつで、成績はよくもないがスポーツができるのでやたらモテている。
アニメやドラマのように全員がイケメンというわけではない。だがそこそこの顔でもモテる。それはなぜかと言えば、そいつは楽しいやつだからだ。
めちゃくちゃいい感じだろ?
共通して言えることは、そいつは明るくて、話しやすくて、一緒にいると楽しい。人に嫌な感じを与えなくて、気遣いができて、優しい。
よくある間違いだが、イケてるやつらは排他的で、身内贔屓で、感じが悪いという人がいる。これらはほとんどの場合、嘘である。
ここで断っておかなければならない、無視できない要素がクラスルームにはもうひとつ存在する。それがイケてないやつらなのだ。
光があれば、影もあるのが世の常である。
イケてるやつらはとにかくいやだ、嫌いだ、悪いやつらだという人々はみな一様にこれで、とにかくイケてない。
排他的なのはほかでもないこいつらのほうで、身内贔屓なのもこいつら、感じが悪いのこそこいつらだ。
こいつらがこうだから、イケてるやつらも反応として感じが悪くなる。自分たちに感じの悪いやつらにまで感じよくするやつなんか、いくらイケてるといっても、どこにもいない。
こんなことをいうと、おれがこいつらを攻撃しているように思う人があるかもしれないから、遅れはしたがこれも断っておかなければならないだろう。
おれは、イケてないやつの一人だ。
おれはイケてなかった。
イケてるやつらにはひとしく感じ悪くしてしまうし、イケてない連中のことも見下しているから、ひたすら孤立していた。
おれはこのクラスルームの力学とでも呼ぶべきものを高校三年間で嫌というほど理解した。その結果としておれはおれなりの処世術というやつを編み出した。
おれはイケてるやつになることにした。
イケてるやつのことをリア充と呼ぼう。イケてないやつのことを非リアと呼ぼう。
陽キャや陰キャという言葉は、悲しいからやめよう。あくまで事実として、リアルが充実しているかどうか、それだけで名前を決めよう。
おれはリア充になる。
明るくて、話しやすくて、人に嫌な感じを与えなくて、気遣いができて優しいやつになる。
リア充になれれば、そうすれば、おれは誰もに好かれる男になれるはずだ。いつか誰かに必要としてもらえるはずだ。
だって、誰もイケてないやつの話なんか聞きたくないだろ?
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