第49話 仮面舞闘会



 翌日、上下部長は部員を二人連れて、魔法幼女が言っていた通り、守夜美月の家の前まで来ていた。

 どうして俺がそのことを知っているかというと、事前に仕掛けておいた監視カメラでその様子は丸見えだからだ。

 何台も設置した隠しカメラで、部長の行動の一部始終はまるっと全部お見通しだ!


「さすが魔法少女を見守る会の部員! カメラのセッティングばっちりじゃねーか、メースケ!」

「そうだろ? 3ヶ月もいたからな……!! カメラの使い方は完璧だ!」


 魔法少女を見守る会は、その様子をカメラに収めるのが目的みたいな感じだったせいで、無駄に俺のカメラに関する知識は増えていた。

 さすがにこんなに大量のカメラを用意することは俺の財力じゃ不可能で、理央にカメラの費用は借りたけど……


「よし、そろそろだな……! 扇、頼んだぞ!」


 部長たちが玄関のチャイムを鳴らす前に、一応まだ部員のままの扇が、上下部長に電話をかけた。


「魔法少女が現れました! 部長、今どこですか!?」

『な、なんだって!? ハァハァ……』


 上下部長は驚いて、動きを止める。

 まさに今から生配信を始めようとしているところだった。


『何言ってるんだ! ハァハァ……魔法少女は今……自宅にいるはずだ! 外へ出ていくところを誰も見ていないぞ!!』

「は!? 何言ってるんですか!! 怪人と戦ってるんですよ!? 今まさに!!」



 わざと上下部長に聞こえるように、扇のすぐ近くで、怪人役の……いや、本当に怪人なんだけど——理央がわざと大きな声でそれっぽく喋る。


「魔法少女め!!! 何をしに来た!! ふはははははぁ!!」

「やめなさい!! 怪人族!! 許さないわよ!!」


 魔法で少し大人っぽい声に変わった魔法幼女がそう叫んで、今扇の前で魔法少女が戦っているかのように演出する。


『ほ……本物か!? 場所は!? 一体どこなんだ!? ハァハァ』

「コウノトリホテルの裏です!!」

『コウノトリホテル!?』


 コウノトリホテルとは、黄河家が経営している有名なホテルだ。

 守夜美月の自宅からは、徒歩で15分ほど離れているため焦る上下部長。


『いや、でも守夜美月は家から出てない!! そんなはずは……本当に、魔法少女なのか?』

「信じられないなら、見に来てくださいよ!!」

『お、おい! 誰か確認しに行ってこい! ハァハァ』

『わ、わかりました!!』


 ついて来ていた部員の一人が、確認のため走り出した。


「うぁっ! うわああああ!! 怪人族がぁああ!!」

『お、おい!! ハァハァ……どうした!? 大丈夫か!? ハァハァ」


 扇は怪人族に襲われたフリをして電話を切ると、俺に向かってウィンクして来た。

 うざい……


「よし、これで完璧だな! あとは、俺が変身すればいいんだろう? 魔法少女に……!」

「あぁ、頼むぞ! 扇!!」

「ナイトパワーっ!!」


 扇の体を、キラキラと星が包み込む。

 そして、星が消えたと同時に、魔法少女の姿に変身した。


「どうだこの姿! 完璧だろう!!」


 ナイトの力恐るべし。

 声も完璧に魔法少女に変身した守夜美月そのものだ。

 ただ、ガニ股になっているから、そこは直して欲しい。


「脱いでもすごいんだぞ? 見てみるか?」

「やめろ、殺すぞ!」

「ははは、冗談だ! ところで、怪人役はどうやるんだ? 信じ込ませるには、特殊メイクとかが必要だと思うんだけど……」


 扇は怪人役をしていた理央の方を見る。

 扇からしたら、理央は普通の金髪の女の子にしか見えないのだから仕方がない。

 本物の怪人だと知ったら、驚くだろうな……


「大丈夫だ。お前は気にせず、戦っている魔法少女のフリだけしていればいい」



 俺はモニターを見る。

 上下部長は家の前に立ったまま、連絡を待っているようだ。

 守夜美月はちゃんと家の中にいるため、あかりがついている。


 準備は整った。


「よし、始めるぞ!!」

「「おーっ!」」


 理央はヒトデ怪人に変化して、俺は仮面とマントを装着した。

 魔法幼女は空の上から、こちらへ確認にくる部員を見張る。


 さぁ、ショーの始まりだ!!




 * * *



「倒せるものなら倒してみろ! 魔法少女め!!! ふはははははぁ!!」

「怪人族め!! 許さないんだから!!」

「魔法少女!! 俺がサポートする!!」


 ホテルに様子を見にきた部員が到着し、俺たち3人は目の前で見事な芝居ヒーローショーを繰り広げた。

 ヒトデ怪人と戦う魔法少女とファン様。

 そして、少し変装をしてもらってはいるが、怪人族に襲われた女役で紅会長も隅っこの方にいたりする。


 誰がどう見ても、魔法少女はそこにいて、今まさに戦っているこの状況。

 自宅にいる守夜美月には絶対に無理だと思うだろう。


 俺の予想通り、様子を見にきた部員は上下部長に電話し状況を伝える。

 ヒトデ怪人に吹き飛ばされたフリをして、物陰に隠れ、俺はすぐにモニターで上下部長の様子を確認した。


「ぶ、部長!! 本当に、魔法少女が戦っています!」

『な……なんだって! そんな……わけ……』

「本物ですよぉぉ!! 守夜美月が魔法少女のはずないです!! 部長の見間違いだったんですよ!! ああ、可愛いいいいー!!」

『ハァハァ……そんな……』


 その時、パッと明かりがついて、守夜美月が玄関から出て来た。

 家の前で騒いでいる上下部長の声に、気がついたようだ。


『あれ? 上下部長じゃないですか、どうかしました? うちの前で……』

『えっ……あ、いや……』


 ここで守夜美月が自分から出てくるのは想定外だったが、ちょうどいい。

 これで魔法少女が戦っている間に、守夜美月本人と会っているのだから、魔法少女の正体ではないということになる。


 この状況で生配信なんてしたら、上下部長が笑い者になるだけだ。


『…………な、なんでもない。家を間違えただけだよ……ハァハァ』



 上下部長は、真っ青な顔で守夜家から逃げるように走り去って行った。



「————よし、OK!!」


 まるで映画監督にでもなったような気分だ。

 戦う演技を続けていた魔法少女とヒトデ怪人の動きが止まる。

 そして、状況を確認しにきていた部員を、二人して捕まえた。


「えっ!? えっ!?」


 急に結託した二人に、パニックになっている部員。

 ヒトデ怪人————理央はにっこりと微笑んだ。


「はい、じゃーいくよー!」


 ————パーンッ


 ヒトデの両手を勢いよく合わせて叩くと、部員はその場に倒れてしまった。


「これでよし!」


 理央の力で、部員の記憶がいじられた。

 俺たちがホテルの中に撤退し、その後、息を切らしながらホテル前に現れた上下部長に、彼は興奮しながら報告する。


「魔法少女が、怪人族を倒していきました。いやぁ……あんな間近で見れたのは、初めてですよ!!」

「顔は!? 魔法少女の顔は見たのかい!? ハァハァ……」

「はい。守夜美月には確かに似ていたけど、違う人でしたよ?」

「そ……そうか……ハァハァ」


 この日以降、怪人族は現れることがほとんどなくなった。

 そのため、魔法少女も現れない。


 上下部長は、もう、魔法少女の正体を知ることはできなかった。

 そうして、魔法少女を見守る会は、この年の冬には廃部となる————






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