第37話 即席ヒーロー


「もう、どうしてこんなところにっ!!!」


 悲鳴が聞こえて、流石に守夜美月も怪人族に気がついた。

 そして、本気で嫌そうな顔をしている。


「せっかく……せっかくメースケくんと……————きゃっ!!」


 怪人族の出現でパニックになる会場。

 その場にいた大勢の人たちが、一斉に出口に向かって同じ方向に逃げ始めたせいで、その人流に飲まれ俺たちは繋いだ手を話してしまった。


「み……美月!!」

「メースケくん!!」


 一度離れてしまうと、小柄な守夜美月の姿はいくら視力のいい俺でも見つけるのは困難だった。

 人混みに逆らって、元いた場所まで戻ったが、会場には他に怪人族と怪人族に捕まっている人以外は誰もいない。


 俺は仕方がなく屋台の影に隠れながら少しずつ怪人族に近づいたが、また捕らえられているのは、若いお姉さんだった。

 背中から生えたワカメで、お姉さんは拘束されていて身動きが取れない。


 まったく、なんで怪人族は若いお姉さんばっかり狙うんだ……って、そういえばあの変態金魚が言っていたな……

 紅家の怪人族は男ばかりで、女が少ないんだって……

 そのせいか?


「あひゃひゃひゃひゃ!! 人間なんてこんなものさ!! 結局我が身が一番大事……誰もお前を助けになんてこないぞ! あひゃひゃひゃひゃ!!」

「いやぁぁぁぁ!!」


 ちくしょう。

 まったくその通りだ。

 いくら相手が背中からワカメが生えている笑い方の気持ち悪い怪人族とはいえ、あんなにたくさん人がいて、誰一人助けようとしないなんて……


 きっと守夜美月なら……

 魔法少女なら助けに現れるだろうけど、逃げていったあの人並みに押されて、怪我とかしてないよな?

 大丈夫だよな?


「さぁ……人間!! 奴隷として我が怪人族の繁栄のために来るのだ……存分に可愛がってやるぞ! あひゃひゃひゃひゃ!!」


 このワカメ怪人は、舌もワカメのようになっていた。

 長いヌルヌルしてる緑の舌で、お姉さんの頬をぺろぺろとなめている。


「ひぃぃぃっ……!!」


 さすがに助けに行かないとまずい!!

 でも、今日はデートだから、デートだと思っていたから仮面もマントも持ってきてないぞ!?


 相手は紅家の怪人だ。

 もしこいつの他にもどこかに怪人がいたら、せっかく晴らした青野家の疑いが台無しになってしまう。

 なにか……仮面の代わりになるものは……————


 あっ!!

 お面屋がある!!!


 並んだ屋台の中に、お面を売っているのを見つけた。

 戦隊モノや世界的有名な黄色いモンスターなんかのキャラクターのお面がずらりと並んでいる。

 流石に、俺がネットで見つけたファン様の仮面と同じものはないが、これで顔は隠せる!!


 でもほとんどが子供向けの小さいもので、俺はその中でも一番大きそうなショッ◯ーのお面を……手に取ろうとしたが、それはさすがにやめて、狐の面を顔につけた。

 そして叫んだ。


「やめるんだ!!! 怪人族!!!」


 ついでに逃げて行ってしまったお面屋の店主が椅子にかけていた背中に祭と書かれた青い法被はっぴも借りて、ワカメ怪人と対峙する。


「貴様……何者だ!! そんな弱そうななりで、このオレに勝てるとでも思っているのか? あひゃひゃひゃひゃ!!」


 ワカメ怪人は俺の姿をみて嘲笑う。

 即席の変装だが、仕方がない。


「姿形なんてどうでもいい!! やめるんだ!! その人を今すぐ離せ!! 花火が始まっちゃうだろう!!!」


 こんなヤツ、さっさと魔法少女に退治してもらって、俺は花火を見るんだ!!

 そして、花火が上がった瞬間、俺は魔法少女と……守夜美月ともう一度キスするんだ!!


 そんな目標を掲げて、俺は魔法少女が現れるのを待った。

 きっと、人ごみに流されて中々ここまでこれないんだろう。


 彼女は小柄だから、仕方がない。

 それまで俺が、耐えてみせる!!




 ————そう思っていたのに……魔法少女は現れなかった。


 その代わり、現れたのは……



「この魔法幼女が、相手よ!!」



 魔法少女じゃなくて、魔法幼女だった。



 ————え、だれ?





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