第33話 キケンな同居人 後編


「いいか、女王様はな……可哀想なお方なのだ……」


 金魚はペラペラと語り出した。

 聞いてもいないのに……。


「女王様はな、我が紅家で唯一の純血でいらっしゃる……。他の紅家のものは皆、混血の血の薄いものばかりよ。中には、一切、紅家の血が混じっていない者たちもいる。ここで働いている者の中にもな……」


 落ち着け俺。

 そこまで驚くこともない。

 あの青い鳥だって喋るし、怪人族なんてものが存在する世界だ。

 珍しいことでもないだろう。

 うん。


「ご両親がお亡くなりになられた今、女王様は後継を産まねばならぬ。それも、怪人族の純潔のものと」

「え……でも、今、唯一の純血だって————」

「だからだ。だから、青野家のお前を誘っておるのだ。いや、お前でなくても、怪人族の純血であるなら、黄河家でもかまわないし……なんなら、お前の父でも構わない。とにかく、女王様は純血の怪人族との間に子を成すのが定めであらっしゃるのだ」


 父さんでも!?


「純血の男以外に、女王様は興味がない。顔も年齢も、気にしてはおられぬ。ただ……女王様がその定めを受け入れるようになるまでには、長い道のりがあったのだ」


 金魚は一度、水槽の中に潜ったあと、ちょっと悲しそうな表情で、紅会長の生い立ちを語る。

 本当に、俺は全く喋ってくれとも言ってないのだけど。


「女王様が、まだお嬢様であられたころ……あれは7歳の頃だった。女王様は自分が怪人族であるということをまだ理解してはおられなかった。人材不足による、奴隷調達のため、ご両親が不在だった時はいつもお一人でアニメを見ておられたのだ」


 奴隷調達って……ひどい仕事だな!!


「女児が好きな、ピンク色やら黄色やら、カラフルな服をきたキャラクターたちが魔法のステッキを持って戦う魔法少女ものが、特にお好きだったのだ」


 あの紅会長にも、そんな過去が?

 魔法少女なんて大嫌いだって、言っていたのに……


「将来の夢は、魔法少女になって戦うことだったのだ。だが、女王様はその夢が叶わぬことを知る。なぜなら、女王様こそ、その魔法少女の敵である怪人族であったのだから……女王様は真実を知り、とても傷つかれた。それでも、女王様はご両親には内緒で、お部屋では魔法少女のコスチュームを着て、密かに魔法少女ごっこを楽しんでおられたのだ」


 コスプレイヤーだったのか。



「しかし!! ある日、女王様は気づいてしまったのだ。どんなに足掻こうとも、女王様のお体は成長され、小学校高学年の頃には、心とは裏腹にまるで大人のような完璧なプロポーションとなられた。小学生とは思えない豊満なバスト。しなやかな腰のくびれ。……そして綺麗なお尻!! 魔法少女のコスチュームは全く似合わず、無理やり着ていたら胸のボタンが弾け飛んでしまうほどであった!!」


 なんか、口調にすごい熱が入って来てるな……


「そして、そんな折、ついにご両親が不慮の事故でこの世を去ってしまわれた。女王様は自分が両親に隠れて、魔法少女になろうとしていたことへの罰だとお思いになられた。それ以来、女王様は魔法少女への夢を捨て、女王として生きることを心に誓ったのだ……! あぁ、なんとお労しい……あの美しく高貴な肉体を、綺麗なお尻を、男の目に晒しながら生きる怪人人生をお送りなるなんて————」


 金魚の泳いでいた水槽の水かさ増しているような気がする。

 もしかして、泣いてる??


「これでわかっただろう、青野の息子よ。女王様は、同じく純血の怪人族の男との間に子を持たねばならぬのだ。よって、お前は次に女王様からお誘いを受けたら、断ってはならぬのだ」

「は!? 嫌だよ、なんで俺が!!」

「何をいうか!! 女王様の何が嫌だというんだ……!! 男なら、あの綺麗なお尻に踏まれたいとは思わないのか!!!」

「……踏まれたいのは、お前だろうが!!」


 ふざけるな!!

 その家の都合的なところは同情するけど、俺には、守夜美月という超絶可愛い彼女がいるんだぞ!!?


「俺には彼女がいるんだ!! 俺がお誘いを受けたいのは彼女の方で、紅会長じゃない!! あんなデッカいおっぱいに興味ないんだよ!!」

「なんて失礼な!! 女王様を侮辱するつもりか!!?」

「だから、そういうことじゃなくて! 俺は彼女がいるから、誘うんなら他の奴にしろって話だよ!! あ、だからって、俺の親父とかやめてくれよ!!? 父親の不倫話なんて聞きたくないぞ!?」


 金魚は俺の発言にびっくりして……急に押し黙った。

 男がみんな、あの紅会長のような女がタイプだなんて思うなよ!!


「……じゃぁ、お前のおじいさんならいいのか?」

「…………もっと気持ち悪いわ! やめろ!!」


 なんなんだ……

 なんなんだこの家の住人は!!


 青野家と紅家って、仲が悪いんじゃなかったのか!?


 っていうか、俺って、疑いが晴れるまでの人質で連れてこられたんだよな?

 魔法少女を助けたのが、青野家ではないと疑いが晴れたら、解放されるはずだ。

 それに、疑いが晴れたらその対価に、父さんに紅会長の体は————


 鼻の下を伸ばしていた父さんの顔を思い出して、気持ち悪くなってきた。

 疑いが晴れようが、晴れなかろうが、紅家にとってはどちらでも構わないってことじゃないか!!


 もしも、俺がファン様だってバレたら、殺されるとかじゃなくて、紅会長と結婚させられるんじゃないのか!?

 種馬にされて、捨てられるんじゃ!?

 そんなの、絶対嫌だ!!!


「ならば、お前しかおらぬではないか。仕方がない。これからこの同居人のワシが女王様の魅力について、一からお前に教授してやろう。デッカいおっぱいと綺麗なお尻、最高だぞ?」


 嫌だ。

 こんな同居人、嫌だ……!!

 って、人じゃなくて、金魚だけど————





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