膝枕

 理沙ちゃんの膝枕でじっくりお昼寝してしまった。一時間ほどぐっすりで、理沙ちゃんは足がしびれていて可哀想なことをしてしまった。でも本人は私を責めずに、全然いいよ。気持ちよく寝れたならよかったとか微笑んでくれた。

 すでに大好きなのに、余計に好きになってしまう。なんでそんなに優しいかなぁ。


「ねえ、理沙ちゃん。ご飯の前に膝枕してもらったでしょ?」

「え、うん。あの、もう一回する?」

「ううん。してもらいたいけど、今日はいいよ。そうじゃなくて、お返しに私もしてあげるね」


 だからとりあえずお返しとして、お風呂にも入ったので膝枕をしてあげることにした。理沙ちゃんは私の提案にきょとんとして、視線を泳がせた。


「あの、い、いいよ。あの、ほら、食べてすぐ横になると、体に悪いから」

「全然すぐじゃないけど……いや、無理にとは言わないけど。理沙ちゃんにしてもらって気持ちよかったから、理沙ちゃんにもって思っただけなんだけど。嫌なの?」


 そもそも、そのセリフは私がこの家に住み始めてすぐのころに私が理沙ちゃんに言ったやつだ。自分で言うくらい頭にはいってるならそれはそれでいいけど、もう食べ終わってから二時間近くになるのに何を言ってるのか。だいぶ消化されたでしょ。

 なんか、そんなメチャクチャな言い訳されてしまうと、何か私変なこと言ったかなとか、私は気持ちよかったけど、理沙ちゃんは私の膝枕そんなに嫌がるほどなのかな、とか、ちょっと落ち込んでしまう。


「い、嫌じゃない……あの、その、じゃあ……お、お願いしますっ」

「え、うん」


 何故か理沙ちゃんはものすごい意気込みでソファに手をついて言ったけど、そんな心の準備必要なことじゃなくない? あ、したことないからわからないのか。


「理沙ちゃん、大丈夫だよ。膝枕してもらうとね、安心して気持ちが落ち着いて、優しい気持ちになる感じだから。そんな緊張しなくていいからね」

「……うん」

「じゃ、どーぞ」


 ソファに深く座りなおして膝を叩いて促すと、理沙ちゃんはもじもじしながらゆっくり私の膝に頭を持ってくる。重さをかけないように浮かせているのでプルプルしている。


「よしよし」


 そっと頭を撫でながら軽く押して私の膝にのせてあげる。私だって全然なれてないけど、まさか膝枕でこんなに不器用な人がいるなんて。笑ってしまう。


「ふふ。力抜いて。大丈夫だから」

「うん……」


 膝の上でカチコチだった理沙ちゃんは、私の言葉にゆっくり首の力を抜いて私の太ももに頭を預け、そっと左手で私の左ひざを撫でた。まだ長袖長ズボンだけど、生地の薄いパジャマなのでちょっとくすぐったい。


「可愛いね」

「う……うんん」


 ドライヤーで乾かしてはいるけど、まだちょっとしけっている感じが残っている髪を手の熱で温める様に優しく梳かしていく。理沙ちゃんの髪は柔らかくて、ちょっと癖っ毛なのがいい感じだ。


「ねぇ、どう? 理沙ちゃん。私の膝枕」

「……す、すごく、いい、と、思います」

「ふふっ、何その言い方」


 急に敬語だし、まだ緊張してるのかな? まったく、理沙ちゃんらしいと言うか。まあ、悪くないならいいけど。


「その……と、とにかく、いい、です」

「ならよかった……足がしびれるまでゆっくりしてね」

「ん……」


 なでなでしていると理沙ちゃんはなれてきたようで、少しずつ私の太ももに顔をすりつけたり、膝を指先で撫でながら楽しそうに体を震わせている。もしかしてちょっと笑ってるのかな?


「理沙ちゃん、笑ってる?」

「んぐ、べ、別に、なんでもない、よ?」

「何その言い訳みたいな言い方。おかしくなったなら我慢せず笑っていいよって言おうとしただけだよ」

「あ……あははは」

「またそれ。まあ意識しちゃうとそうなのかもしれないけど。まあ、いいけど」


 でも膝枕されて笑っちゃうのもよくわからないけどね。確かに安心するし、ほっとして口元緩むのはわかるけど、体震えるほど笑うってそんなおかしいアトラクションではないし。

 まあ理解はできないけど、理沙ちゃんが楽しいならそれでいいけどね。


「うん……あの、は、春ちゃん」

「なに?」

「その……もうちょっと、頭、なでてもらってもいい?」

「うん。いいよ。いい子、いい子」

「ん……」


 こうして膝枕のお返しをした。

 何となく、昨日までよりぐっと仲良くなれた気がする。理沙ちゃんの下着が気になってしまったのがきっかけなのがちょっとしまらないけど、結果オーライだ。柔軟剤の匂いも解決したしね。


 私は満足して眠りについた。









「ねぇ理沙ちゃん、今度のデートはどうしようか」

「え、あー……そ、外に行きたいな」


 週も後半なので尋ねると、理沙ちゃんは私の手をにぎにぎしながらふわっとした意見を言った。


「え? まあいいけど、そうだね。最近雨おおかったし、週末は晴れだからちょっと体動かしたいよね」

「……うん。そう」

「うーん……じゃあ、そうだ。公園に行ってバドミントンとかするのはどう? お弁当持って行って」


 これならあんまりお金もかからないし、たまには思いっきり体動かしたいもんね。ちょっと離れた自転車で15分くらいのところの大きい公園が、デートスポットだってのも調べてるし、ちょうどいいかも。


「え……い、いいけど。なんていうか……ものすごく、リア充っぽいと言うか……」

「え? なんだっけ。あー……充実してるってことだよね、別に、理沙ちゃん充実してるんじゃない? 何か足りないこととかある?」


 ふわっとした理沙ちゃんの提案を具体的にしてあげたのに、理沙ちゃんはなんだかあんまりぴんと来てないような反応だ。


 リアルが充実してるって意味だっけ。確か美香ちゃんが持ってきたテレビ雑誌に載ってた気がする。

 でも理沙ちゃんは頭がいい大学に通ってて成績もいいし、就職先も決まってて生活にあったバイトもやってて、家族にだって恵まれているし、私だけど恋人もいるし。リア充っぽいとかなんか嫌そうにいったけど、むしろめっちゃ理沙ちゃんの人生充実してない?


「…………そう言われると、こう、まあ、確かに、春ちゃんがいてくれるだけで、充実はしてるんだけど。今のはあの、リア充と言うか、陽キャと言うか、パーティピーポーへの苦手意識と言うか」

「ちょっとよくわからないんだけど」

「……まあ、行こうか」

「ん? いいの? 別に気が進まないなら別でもいいよ」


 バドミントンは適当に言ったんだし、二人でできてお手軽で楽しいならなんでもいいしそう言ったけど、理沙ちゃんは複雑そうだった微妙な顔からちょっと笑った。


「ん。春ちゃんと一緒なら何でも、楽しいデートになるから、いいよ」

「うーん……その言い方は、ちょっと、ずるいかな」

「え、あ、駄目、だった?」


 駄目じゃない。でも、それだと何でもいいみたいになるし、私ばっかり内容にこだわってて私は理沙ちゃんだけじゃ満足しないみたいにもなっちゃうし、先に言うのはずるい。

 でも、そんなずるい理沙ちゃんにドキドキしてしまうから。仕方ないなぁ。私はぎゅっと理沙ちゃんの手を握って顔を寄せながら安心させてあげるために否定する。


「ううん……ちょっとドキッとした。あ、ときめいた、って感じかな。駄目じゃないよ」

「そ、そっか……ん、ふ、ふふふ」

「ふふ。その笑い方、上手にできてるよ」


 正面から顔を覗き込む形になった私に、理沙ちゃんはちょっとつっかえながらもそう自然に笑った。その笑みの綺麗さにまたドキドキしてしまいながらも、私はすかさず褒めた。ちゃんと、できてる時はその都度褒めて、理沙ちゃんの体にしみ込ませないといけないからね。


「んふふっ。へへぇ、あ、ありがと」

「うん、可愛い笑い方だよ」

「えっ、えへへ」


 もうすっかり、手を繋ぎながら顔をあわせてお話しできるようになった。ちょうどいいかもしれない。今度のピクニックで、手を繋いでデートするところまでいけたらいいな。


「あ、ところでバドミントン持ってる?」

「えっと、ないから、土曜日に買おうか」

「えー、そんなのいいよ。バドミントンなら、友達持ってたから明日借りてくるよ」

「えぇ、うん。わかった、えっと、じゃあ、私も、先輩に聞いてみる。あの、公園に遊びに行くの初めてだし」

「うん? うん、まあ、じゃあ、私も聞いておくよ」


 いや、公園に遊びに行くのは初めてじゃないでしょ。昔理沙ちゃんと、大人たち忙しそうだし公園でもいこっかって感じで何回かいったりしてたし。

 と思ったけど、まあデートとしていくのはお互い初めてなんだし、いいでしょ。私も公園デートで普通に遊ぶのと何が違うかは、一回聞いておいた方がいいかもだしね。


 と言うことで翌日私は例によって二人に相談した。美香ちゃんがバドミントンを貸してくれることになったので、帰りに美香ちゃんの家に寄った。美香ちゃんはアクティブなタイプなのでバドミントン以外にもあれこれスポーツの提案をしてくれた。

 それはいいけど、デートとしてこのタイミングで距離をつめたらいいよとか、そう言うのはちょっと大きなお世話です。もう膝枕はしてるし。


「ところで、行くのって明後日の日曜なんだよね?」

「うんそう。月曜に返すね」

「最近使ってないし、慌てないでいいけど。まあ、また、結果教えてね」

「わ、わかってるって」


 相談に乗ってもらった以上、結果報告は当然だ。だけど、当然あの下着事件とか言えないことはあるからね。うん、まあ、お家デートじゃなくてよかったかもね。

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