第2話 「今の趣味は専ら動画配信者を追いかけることです恋愛とか興味ありません以上」
近くにある警察署に連れて行くと、そこには何故か総務部のお局こと森田さんとその旦那さんらしき男性の姿があった。
「レオくん! ここに居たんだねぇ! 家に居ないから私も主人も心配していたんだよ!」
(レオくん……?)
森田さんはレオンハルト様を抱きしめてわっと泣き出してしまう。
「森田夫人、ご心配をおかけしてすみません。アンナマリ―の気配を感じて彷徨っていたんです」
「レオくん、恋人のことが心配でたまらないのはわかるけど無理をしちゃ駄目だよ」
私たちは恋人ではなかったのですが、と心の中で突っ込みを入れた。
「実は先ほどようやく見つけたのです。愛しのアンナマリーとようやく再会を果たしました!」
キラキラしい笑顔を振りまく王子様に、森田さん夫婦は涙を流して祝福しているのを冷ややに見つめる。
私はその胡散臭い笑顔に騙されないからな、と心の中で悪態をつく。
「あらま、レオくんが探していたのって、喜志さんのことだったのかい!」
「いや、人違いですから。それより森田さんは、この人とどのような関係なのですか?」
「ああ、彼は主人がぎっくり腰で動けなくなったのを助けてくれた恩人なんだよ。それ以来、毎日夕食に招待しているのさ」
人心掌握の手腕は相変わらずらしい。
前世でもそうだった。
するりと懐に入り込んでは周囲の人間を意のままに操っていたのを覚えている。
(気が強くて恐れられている森田さんを懐柔するなんてさすがだわ……)
感心していると、レオンハルト様と目が合ってしまう。
緑色の瞳も金色の髪も、前世と変わりない姿だ。
一方で私は黒髪に黒い瞳の、前世とは全く異なる容姿。それなのに私だと気づいたレオンハルト様の第六感が恐ろしい。
貴婦人たちから宝石のようと形容されていた緑色の瞳に、ゆらりと影がちらついて見えた。
「アンナマリ―……」
「私はアンナマリ―ではありません。喜志杏奈です」
訂正すれば、わざとらしくしゅんと項垂れて森田夫妻の同情を買おうとしているのが憎らしい。
「少しは話を聞いてあげなさいよ。レオくんは喜志さんを探すためにはるばる外国から来たんだよ。そのためにいくつも外国語を勉強したり、渡航するためのお金を稼ぐために必死で働いているのさ」
森田さんの話によると、レオンハルト様は近年勢いを増しているIT企業のCEOをしているらしい。
口から出まかせなのでは、と訝しんでいると、隣に居る筧さんが「どうりで見たことがあるわけだ。この前、雑誌で紹介されていたよな?」と興奮気味でその雑誌の表紙をスマホで見せてくれる。
表紙にはでかでかとレオンハルト様の写真が掲載されている。
ええ、情報に疎いから知りませんでしたよ、と自暴自棄になってスマホから視線を逸らした。
「ドラマみたいな恋愛ってあるもんなんだねぇ。喜志さん、この機会を逃したら後で後悔するわよ?」
「今の趣味は専ら動画配信者を追いかけることです恋愛とか興味ありません以上」
厄介な王子様とはもう関わりたくないのだ。彼がつけ入る隙を与えるつもりはない。
それなのに、隣に居る筧さんが要らぬ提案を持ち掛けた。
「お前、喜志に振り向いてもらうためなら何だってするか?」
「筧さん?」
「おいおい、怖い顔をするなよ。こんな男前が必死に口説いているんだから、ちょっとくらいは可能性をあげたらどうなんだ?」
何てお節介を、と更に睨みつける。
(絶対にこの状況を楽しんでいるよね……?)
筧さんは片手で顎を撫でつつ、企み顔を浮かべているから嫌な予感がしてしまう。
(いいオモチャを見つけたって顔をしている……)
「そうですね。アンナマリーのためなら何だってします」
「ええっ?!」
前世ではレオンハルト様が安請け合いしているところなんて見たことがない。
王族という立場であるから、どんな判断だって慎重にされていたのだ。
「いい返事だな。それじゃあ、協力してやるからこの後付き合ってくれ」
筧さんは上機嫌で王子の肩に腕を回し、連れて帰ってしまった。
一体どんなことになるのかわからないが、極力関わらないようにしよう。
そう誓うものの、事態が思わぬ方向に動き出したせいで、私は嫌でもレオンハルト様の事が気になってしまうのだった。
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