第三章:真相の追及

第18話 放課後の偵察行動ですわ


「それじゃ、今日はここまで。ホームルーム前に帰るんじゃないぞ」


 片目が髪で隠れている、現国という授業の教師が鋭い目をわたくし達に向けて教室を出ていきました。女性ですがあれは手練れの目ですわね。


 さて、それはともかく放課後になってしまいましたか。

 お昼休み以降は特に面白いことはなく、休憩のたびに里中さんやクラスメイト達が話しかけにくる程度でしたわ。

 花瓶事件について少し掘り下げてみたのですが、一番最初に来た生徒が見た時にはすでにあったとのこと。

 その後はクール系女子である佐藤さんが居たと言っていましたが、やはり『置いた』タイミングが不明という点のせいで犯人とは決定づけられるものが無い。


「探した方がいいですかね?」

「なにを?」

「ああ、里中さん。あの三人ですわ。結局、戻ってこなかったわけですしこちらから接触して話を聞くべきだと思って」

「本気で言っているんですか!? あ、あの、飛び降りた原因があの三人にある――」

「――かもしれませんが、そうではないかもしれません。それを確認したいのです」


 里中さんが拳を握って力説しようとしてきたのを遮ってわたくしの考えを告げると、押し黙る。


「心配していただけるのありがたいですが、これはわたくしの問題。大丈夫、あの三人が手を出してくるならそれこそ好都合です」

「ええー……」


 里中さんが呆れた顔で呟く。

 危険があるのはそれとして、逆に言えば女子高生同士で命をかけるような場面は殆どないと考えます。

 てれびどらまのようなことは現実にそうそう起こるようなことは無いということですわね。


 ……ただ、美子がビルから落ちた原因が自分からなのかどうか? 実はそこが一番の論点で、いじめの主犯を見つけただけでは解決とは言えないのですよね。


あのイヤリングが現場に落ちていましたが、わたくしたちのような若い女性がつけるもので比較的新しいものでした。

 イコール、誰かに呼び出されて突き落とされた可能性も残されていますわ。


「それでは」

「待って待って!? 危ないですって絶対!」

「そう言われましても、わたくしの好奇心はすでに動き出していますわ」

「そんな盗んだアレで走り出すみたいなノリで危険に首を突っ込むのはダメですって!? ……なら、私も一緒に行く」

「それこそ危ないですわよ」


 妙なことを口にする里中さんに眉をひそめるわたくし。

 それこそ、誰にも言っていませんが、誰かに道路へ突き飛ばされたことがあるわけですし里中さんが友人だと思われ狙われることもありますし。


「いいからいいから! それに才原さん達がどこにいるかわからないですよね?」

「ふむ、里中さんなら知っている、と」

「ええ、隣町に若者向けの服とかアクセサリーを売っているところがあるんだけど、その辺に居るらしいの」


 なるほど、あたりは着いているということらしいですわ。それなら場所だけでも案内してもらえると助かりますね。


「……わかりました。今日は同行を許可しますわ」

「なんか言い方が引っ掛かるけど、一緒に行きますね。あ、家に遅くなるって電話だけさせて」

「どうぞ」


 わたくしが承諾すると里中さんはウインクをしながらスマホを取り出し、廊下に出ていきました。

 こういう場合は一人の方が動きやすいのですけれど、今回は才原さん達の行方を知るというなら頼るべきでしょう。

 そんなことを考えながらカバンを持って廊下へ出ると、里中さんがこちらに気づいて、


「――というわけだからお願いします。それじゃ!」


 ちょうど電話を切るところだった。そのままスマホを上着のポケットに入れてこちらへ来ると並んで歩き、下駄箱へ。

 そういえばこの靴を履き替えたり家では脱ぐというのはまだ慣れませんわね。


 そのまま校舎を後にすると、里中さんの案内で家とは違う方向へ歩き出す。

 周囲を確認すると怪しい車もマスコミらしき人物も居ないようですわね。里中さんが居るので一層の注意をしないといけません。


「それにしても、本当にキレイになりましたね神崎さん」

「え? ええ、ちょっと前の姿を鏡で見た時に周りの方と比べたらみすぼらしかったですから」

「元がモデルさんの娘なんだからそうなるわよね……。あ、駅はこっちですよ、そういうのも忘れているの?」

「そうですわね。記憶がまったくありませんから。それと車で移動することの方が多かったですし」


 『駅』という場所は見たことありませんしね。

 あの廃屋のビルへは歩いて行きましたが、電車という乗り物だと少し速いようですわ。


「……きっぷ?」

「ええ、それも……!?」


 電車に乗るためには切符というものが必要らしく、お財布から小銭を取り出して『券売機』と書かれた機械へ入れて目的の場所へ行くための切符を買う。


『キップヲオウケトリ、クダサイ』

「おう……!? こいつ喋りましたわ……!」

「驚きすぎですよ!?」


 という一幕があり、またなにか妙な機械にキップを通す。


「神崎さん、切符取らないと!」

「面倒ですわねえ」


 これなら徒歩の方が楽ですわ。それかタクシーとかいうものを使えば良かったかもしれませんわね――


「ほー! これは速いですわ! 自動車とは比べ物になりませんわね! ほら、御覧なさい家屋があっという間に過ぎていきますわ!」

「小学生か!?」


 ――と、思っていましたが案外楽しかったですわ。この世界の技術力、向こうの世界にぜひ欲しいですわね。


『間もなく如月、如月です。お降りの際は――』

「着きましたよ。行きましょうか」

「残念ですわ」


 もう少し流れる景色を見たかったですが、目的を果たすため行きましょうか。

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