第二章:令嬢は学校へ行く
第6話:まずは様子見で学校へ行きますわ
さて、お寿司を食べた日はとりあえず平和でしたが、翌日から大変なことになっていました。
何故かというと学校の偉い方や、警察というよくわかりませんが、警護団のような人達が連日自宅に訪れていたからです。
両親は『美子』が自殺をしようとした原因の調査を依頼しており、落ち着いたであろう頃合いを見計らって話を聞きに来ていた、というわけ。
……結果、学校はなにも分からずじまいで、わたくしも記憶喪失ということで平行線。
現在も調査中との弁ですが、お母さまが言うには恐らくなにも出てこないであろうと怒りをあらわにしていましたわね。
学校の対応はともかく両親も娘の変化に気づけずここまでの状態になってしまったことには罪悪感があるようで、なるべくわたくしに構おうと努力しているのは感じ取れます。本当に気づいていなかったのでしょうね。
さて、両親の罪悪感はまたお寿司で償ってもらうとしましょう。
この世界の常識をある程度吸収し、傷も癒えたので原因の調査のため、わたくしは学校へ行くことを決意しそれを両親へ伝えました。
「「学校へ行く!?」」
――日曜日の夕食後、わたくしが学校へ行く宣言をすると驚愕な叫びが両親から放たれました。
そこで同席していた涼太が神妙な顔で二人に対して口を開きます。
「帰って来てから俺は何度か姉ちゃんが『変わった』って言ってきたけどそれは分かった? で、姉ちゃんは元の記憶が無いから行くってさ」
「確かに以前と違ってお嬢様みたいな喋り方をするようになったけど……」
「で、でも、いじめの実態はまだ分からないし、記憶が無くても行くのは危ないわ。あ、そうだわ転校しましょう! ね?」
お母様が慌てて止めてきましたが、わたくしはもう覚悟を決めているので、手で制し、目をしっかり見て口を開きます。
「いえ、やはりこんなことになった原因は現地でしかわからないでしょう? 学校を変わってしまっては謎を解くことができません。わたくしはどうしてこうなったのかを知る権利があると思うのです」
「……また追い込まれでもして、今度は本当に死ぬなんてことになったら俺達はやりきれない。考え直せないか?」
「無理です」
「即答!?」
「わたくしはやられっぱなしというのが気に入らないんですの、やられたらやり返す……それがこのレミ=ブランデッシュの矜持です。それにわたくしが居なくなったら標的が変わり、同じような人が出てくるかもしれません。それでもいいと?」
わたくしがそういうと、お母さまが顔を伏せてから首を振って返してきます。
「それはありうるかもしれないけど、親としては自分の子が一番大事よ? 敵地に送り込むような真似はしたくないの」
「大丈夫です、今のわたくしは『美子』であって『美子』じゃありません。危ないと思ったら先手必勝といきますわ」
「うん、確実になんらかの手段で加害者を倒す気だよね……普通そこは撤退だろうに」
涼太が呆れた顔でため息を吐くと、黙って目をつぶっていたお父様がゆっくり目を開け、わたくしへ質問を投げかけてきました。
「……本当に大丈夫なんだな? もし、少しでも不穏なことがあれば学校を変える。それでいいか?」
「お父様たちも心配でしょうし約束しますわね。まあ、きっと大丈夫です」
「なにかあればすぐに連絡をするのよ?」
わたくしがにこやかに答えると、渋々頷いて了承を得ることができました。
さて、準備は整いましたが、戦いはこれから……向こうで『凶悪令嬢』と呼ばれたわたくしが美子の仇を討って差し上げましょう――
◆ ◇ ◆
――翌日
「本当に大丈夫かしら……? 私は今日も撮影があるからすぐに駆けつけられないかもしれないけど、なにかあったら連絡するのよ」
「ありがとうございます、お母さま。『すまほ』の使い方はばっちりですからご安心くださいな」
「そ、そう、頼もしいわね……。それじゃ、先に出るわ」
「「行ってらっしゃい」」
お父さまはすでにお仕事へ行っているのでわたくしと涼太で見送り、すぐにわたくしたちも外へ。
「中学と近いから途中までは一緒に行くよ」
「助かりますわ」
「でも、そんな地味な格好で良かったの? 母さん似で美人なんだからちゃんとしていけばいいのに」
「ダメですわ。いきなり手の内を見せるような真似をしてはいけません、まずは様子見をしなければ」
「まあ、今のレミ姉ちゃんなら大丈夫だと思うけど……とりあえず行こうか」
そんな調子で涼太と共に学校へ向かい、程なくして到着すると涼太と別れて単身、校舎へ。
「……1-D、ここですわね」
『せいとてちょう』から割り出した教室を見つけ、教室へ入ると――
「……!?」
「神崎だぞ……」
「マジか、まだ学校に来るとは思わなかったな……」
「だ、大丈夫かな……」
――皆の視線が集中し、それぞれ畏怖の声や安堵した様子などまちまちな態度が見受けられ、なんとなく居心地の悪さを感じますわね。
とりあえず自席までは調べられなかったので、近くに居た女生徒に声をかけてみましょうか。
「そこのあなた。すみません、わたくし記憶が曖昧なもので席がどこか分かりませんの。教えてくださるかしら?」
「ふぇ!? あ、は、はい! ……こ、こちらです……」
「……ふうん」
小柄な方が何故か恭しく案内してくれたそこには――
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