第33話 ギャップ

ベルヴァルト監獄から王国まで馬車で2日掛かる。


道中、青藍が皆に提案した。


青藍が住んでいる村が王国へ行く動線付近にあるらしい。休むには最適だという事だった。


「良いのか?俺達が行ったらびっくりするんじゃないか?村の人達は皆、人間嫌いだろ?」


クロガネが心配して青藍に聞いた。


「なあに心配はいらねー、俺が説得するさ」


動線から少し外れ、岩山を越えると周りから遮断された村が遠めに見える。

煙が上がっており、生活をしているようだった。


「帰ったぞー!」

青藍が村に到着すると開口一番叫んだ


「青藍!お帰りなさい!」


「よう、帰ってきた」


「ねぇ、ねぇ、今回の旅はどうだったの?」


家から老若男女?性別は良く分からないがたくさん出てきて青藍の帰りを喜んだ。


「青藍! 息子たちは見つかった?」

1人の熊のような獣人が青藍に近づいてきた。


「おふくろさん、すまねぇ。。駄目だった。セヌアで2人を弔ってきた。これはあいつらの形見だ」

そう言うと、布袋から2人の牙を渡した。


「そ。。。そんな。。。。うっ。。」


がっくりと膝から崩れ落ち、地面に突っ伏して泣き始めた。


あの2人の母親か。。。

クロガネはいたたまれない気持ちになった。



気付くと珍しいのか、多くの獣人達に一行は囲まれていた。中には殺気だっている者も居た。


「この人間達は俺の仲間だ!歓迎してやってくれ!」


青藍の一言で、周りの獣人達が歓迎ムードになり獣人の子供達が寄ってきた。


「ねぇねぇ、青藍は凄いんだよね?僕たちの為にたくさんの食料やお金を稼いできてくれるんだ」


1人の獣人の子供がクロガネに聞いてきた。


「ああ、青藍は凄い奴だよ。強いし仲間思いだしな」

それを聞くと満足したのか走ってどっかへ行ってしまった。


村は貧しいながらも、一行をもてなしてくれた。


部屋も1人1部屋用意してくれ、簡素であったが、藁で出来たベットが思いのほか気持ちよかった。


その夜は村の長老のはからいで村全体が歓迎として村の中央広場で焚き火を囲んで酒盛りが始まった。


「。。。。じゃあ、仕事がないから自給自足で生活したり、青嵐が持ってきてくれた食糧で何とか生活しているって事ですか?」

興味ありげにエヴァが長老に色々と聞いていた。


「その通りじゃ、壁が出来る前はまだましな生活が出来たんだ。ほれ、今じゃ周辺は犯罪者がのさばっているからの。危なくて村からも出られないんじゃ」


「私。。。色々と勘違いしてました。獣人は獰猛で争いが好きで悪いことばっかりする種族だって教育されてたし、実際に監獄でもそういう人達を見てきたから」


「悪い奴はどの種族にも居る。獣族は本来静かな場所で生活を好むものじゃ。人間と変わらんよ」


「。。。。」




エヴァは。。。。酒癖が悪いらしく獣人達に絡みドン引きさせていた。


「クロガネ!聞いてるの?」


エヴァがクロガネに絡みだす。


「はいはい、聞いてるよ」


「大体あんたねー、新入りの癖にねー、ヒック。。ちょっと生意気なのよ!」


「パワハラだ」


「パワハラ―?何よそれ? ヒック。。。おいしいのー?ねぇ ねぇ ねぇ?」


エヴァがクロガネにぴったりとくっ付いてきて顔を覗き込む。


「いや、美味しくはないけど、大丈夫か?」


「何よー?邪魔者扱いしないでよー ヒック」


「邪魔者扱い何てしてないさ、それよりエヴァ、もしかして酒を飲むの初めてか?」


「ええそうですよー!悪いですかー?それが何かー?ヒック」


「いや、そういうつもりで言って無いよ」


「ヒック、しょうがないでしょ?私の家系はね、由緒正しい王族なのよ!厳しくてお酒も飲ましてくれなかったのよ?」


「そうなのか?それは凄いなーって、え?王族?」

クロガネがビックリして聞き返す。


「壁の内側の生活に飽き飽きしていた私はねー、ヒック、壁の外側に興味を持って1年前に護衛の目を盗んで飛び出してきたのよー、ヒック それでねー 素性すじょうを隠して監獄の採用面接を受けて今にいたるわけー」


「本気まじか?」


「まじか?ヒック なにその言葉ー?」


「じゃあエヴァは王家のお嬢ってことか?」


「お嬢じょうじゃ無いわよ、おうじょよ」


クロガネは掌てのひらでエヴァの口を塞いだ

「しー エヴァ。。。この事は誰にも言ってないのか?」


「ヒック ウド爺だけが知ってる。この事は誰にも言うなって ヒック それに監獄では特別扱いしないって言われてる」

クロガネの手を振り払い上機嫌に答える。


「王女が行方不明だったら壁の内側では大騒ぎじゃないのか?それに今、大変な事になっているじゃないか」


「さー、知らなーい。ヒック 国王あのひとは保身の事しか考えない人だったから。何とか。。。何とか。。。もう。。だめ」

そう言うとエヴァは座っているクロガネの太股ふとももを枕にして眠ってしまった。


普段の気丈な振る舞いや能力が高く魔法を使える事が出来たのは、エヴァの生い立ちによるものだった。



「クロガネ― こっち来い!もっと酒飲むぞ!」

リュックも酒を浴びる様に飲み獣人達と肩を組んではっちゃけていた。


「分かった」

クロガネがエヴァをどかして行こうとしたがエヴァががっちりクロガネを掴んでいるため動けない。

寝ているエヴァを指して動けない事をアピールした。


「モテる男はつらいね~!」


すると、今度は青藍とウド獄長が樽たるに入った酒を抱えてクロガネの所にやってきてドカッと胡座をかいて座った。


「よー色男、調子はどうだい?」

青藍はそう言いながら酒がない入ったコップをクロガネに渡した。


「見ての通り。動けなくなっている(笑)」


「酒が苦手って事は無いよな?」


「接待で場数を踏んでいるから酒は好きな方だよ」

と言いながら、青藍に渡された酒をいい気に飲み干した。


「クロガネよ 今夜は無礼講だ」

今度はウドが酒が入ったコップを渡した。


「ウド獄長 提案なんですが、囚人服の格好にして行くってのはどうですか?今のままだと目立ちすぎる」


「。。。うむ 良い提案だ。しかし、囚人服を調達しないといけないな」


「実は馬車に積んでいます。何かに使えると思って」


「よし、良いだろう。明朝の出発前に着替えるとしよう。さぁ 飲め飲め!最後の晩餐になるかもしれないからな」


「さらっと怖いこと言わないで下さい。所で。。。。エヴァが王女って事実ですか?」

クロガネがウドに耳打ちをした。


「クロガネに喋ったのか?」

酔っぱらってたみたいでとクロガネが答えると、ウドはクロガネの太股の上で寝ているエヴァを見て大きくため息をついた。


「真実だ。父上こくおうには伝えている。社会勉強の為に面倒を見てやって欲しいとの事だ。常にワシの目の届く所に置いて置く必要があった。だから危険だったが討伐隊として彼女を選んだのだ

。内密に頼むぞ」


「分かりました」


それから3人で両手で抱えるほどの皿になみなみと酒を注ぎ飲み競った。


クロガネはこの世界に来て初めて気が休まった気がした。


この世界でこういう生き方も悪くない。


と思いながらも、途切れなく注がれる酒を飲んでいる内に意識が無くなった。。。




「うー、頭痛い。。」

エヴァが目を覚ますと、見知らぬ部屋で寝ていた、

枕にしては妙に頭の下が柔らかい。

顔を天上に向けると寝ているクロガネの顔が飛び込んできた。よく見るとクロガネがエヴァを膝枕をしていた。


「キャー!!変態―!!」


ボカッ!


エヴァは叫ぶと寝ているクロガネを殴りつけた。


「グヘッ!」

クロガネは吹っ飛び頭を打ち付けてそのまま意識を失ったようだった。


「どうしたどうした!」

リュック達が駆け付けると気を失ったクロガネと拳を握っているエヴァの姿だった。


「この変態が私が酔って寝ている事を良い事にひ。。。ひざ」


「ひざ?」


「膝枕してたのよ!」


「なんだそりゃ。。。」

駆け付けた皆は呆れて戻って行ってしまった。


「何よ!膝枕してたのよこの変態が!!」



。。。



「貴方達に神のご加護を。どうかご無事で」

村の長老が祈念して木の実や花びらを混ぜたモノを一行へ振りかけた。


「貴方達のおもてなしは忘れません。必ず何かの形で恩返しをさせて貰いたい」

ウドが代表してお礼を述べ、一行はタギアタニア王国の中心へ出発した。

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