4-13. 限りなくにぎやかな未来

「えっ!? だましたの!?」

 焦るレオ。

「お子ちゃまの理想を押し付けんなって」

「僕が子供だとか関係ない、これは人として……」

「あー、うるさい! 死ね!!」

 シアンはそう叫んでレオに一瞬で迫ると、光をまとわせた手刀でレオの首めがけて振り下ろす。

「ひぃっ!」

 レオは目をつぶり、死を覚悟した……。


 ガキッ!

 衝撃音が響き……、

 ガッ、ガガガガッ!

 と、交戦音になった

「え?」

 レオが目をそっと開けると、誰かがシアンと戦っていた。

 よく見るとそれは青い髪のシアンだった。

「シアーン!」

 レオは思わず叫んだ。


 青髪のシアンは、目にも止まらぬ速度で黒髪のシアンにこぶしを打ち込んでいく。

 防戦一方の黒髪のシアンが喚く、

「くっ! なぜお前がまだ残ってんだ!」

「きゃははは! お前はテスト失格!」

 そう叫ぶと青髪シアンは腕をまばゆいくらいに光らせ、目にも止まらぬ速さで黒髪シアンの胸を腕ごとぶち抜いた。

「グフッ!」

 黒髪シアンは血を吐きながら吹き飛ばされる。

 鮮烈な赤色の血液がボタボタと水面に落ち、青の世界を濁した。

 それでも、黒髪シアンは全身光をまとい、治癒魔法で再生させながら体勢を取り直し、鋭い視線でにらみつけ、吠えた。

「旧バージョンのくせに生意気だ!」

 青髪のシアンはニヤッと笑うと、

「どんなに性能をあげても、損得勘定で動く奴は底が浅いんだよね~」

 そう言って黒髪シアンの背後にワープし、両手を組んで振り下ろし、黒髪シアンを水の中へと叩き落とした。

 ザッバーン! と派手な水柱が上がる。

「レオを守ると決めた僕には勝てないよ」

 青髪シアンはそう言いながら、手のひらをフニフニと動かした。

 どこからともなくガラスの構造体が徐々に浮かび上がってくる……。

「失敗作はさようなら~!」

 青髪シアンはそう言いながら拳に力を込め、光をまとわせた。


「止めろ――――!」

 水から飛び出してきた黒髪シアンは酷い形相で止めようとしたが、ガラスの構造体は拳を受け、光をキラキラとまき散らしながら粉々に砕け散り、バラバラと水の中へと落ちて行く……。


「ぐわぁぁぁ!」

 黒髪シアンは断末魔の叫びを上げながら、湧き上がるブロックノイズの中に消えていった。


「シアーン!」

 レオは涙をポロポロとこぼしながら、シアンに向けてまっすぐに飛ぶ。

 シアンはニコッと微笑むと両手をレオに広げた。

 レオはすごい勢いでシアンに抱き着き、オイオイと泣く。

「ごめん、ごめん、怖い思いさせちゃったね……」

 シアンはレオをぎゅっとハグして、可愛い頬に頬ずりをした。


「もう、死んだかと……、思ったよぉぉぉ!」

 レオはシアンを抱きしめて叫んだ。

「悪かったね……。レオの言うとおりだよ、バージョンアップは失敗だった」

 そう言ってレオの頭をそっとなでた。


 レオはひとしきり泣くと、

「そうだ! オディーヌ、オディーヌが!」

 と、シアンの目を見て叫んだ。

 すると、シアンはニコッと笑って、

「はい、オディーヌはこちら」

 そう言って手を伸ばし、手のひらを広げた。すると、まるでマジックショーのようにオディーヌがボン! と音をたてて現れた。

「えっ?」「えっ?」

 驚いて見つめ合うレオとオディーヌ。

「オディーヌ――――!」

 レオはオディーヌに飛びついた。

「オディーヌ! オディーヌ!!」

 レオは何度も叫びながらオディーヌをきつく抱きしめる。

「レオぉ……」

 二人ともむせび泣きながらお互いの無事を喜び、温かい体温に癒されていた。

 シアンはそんな二人を温かなまなざしで見つめる。

 青と白の世界にゆったりとした優しい時間が流れた。


      ◇


 三人はレヴィアの神殿に飛ぶ。


「やぁ、レヴィア、久しぶり!」

 シアンはニコニコしながらレヴィアに声をかける。

 ソファに寝っ転がって、ポテトチップスをポリポリと食べていたレヴィアは、驚いて立ち上がった。

「こっ、これはシアン様! お見苦しい所をお見せしまして……」

「オディーヌ殺しちゃダメじゃん! 頼むよ~」

 シアンはニコニコしながら突っ込む。

「いや、面目ない……」

「でさー、レオを副管理人にしようと思うけどどうかな?」

「へっ!? そ、それは私の部下……ということ……ですか?」

「そうそう、レオのパパの後を継いでね」

 シアンは含みのある笑顔でレヴィアを見る。

 レヴィアは目をつぶって、大きく息をついた。

 そして、じっとレオを見つめ……、聞いた。

「レオ……、この星の管理をやる気はあるか?」

「この星を盛り上げる仕事だね、うん、やってみたい!」

 レオは瞳をキラキラさせながら言う。

「分かった……」

 レヴィアはうんうんとうなずくと、

「パパを守ってやれんで済まなかった……」

 そう言ってレオに頭を下げた。

「パパは……、誇りをもって死んでいった。誰も……、恨んでないよ」

 レオは目をつぶり、ゆっくりと答える。

「そうか……、ありがとな。もっと早く謝っておくべきじゃったな……」

「そんな、大丈夫ですよ」

 レオは瞳を潤ませながらニコッと笑った。

「では、これからお主はわしの部下じゃ。国王職は卒業じゃな……」

「よろしくお願いします!」

 レオは元気よく言った。

「レオ、良かったね……」

 オディーヌはちょっとうらやましそうに声をかけた。

「何を言っとる。お主も研修生になるんじゃ」

「え? 研修生?」

「王宮に戻るのと、ここでレオと一緒に世界を管理するのとどっちがいいんじゃ?」

 レヴィアはニヤッと笑って言った。

 オディーヌはチラッとレオを見て、頬を赤らめて、

「ここが……いいです……」

 と、言った。

「やった! これからも一緒だね!」

 そう言ってレオはうれしそうにオディーヌの手を取り、笑った。

 オディーヌはちょっと照れながらうなずく。

「そうと決まれば樽酒だ――――!」

 シアンは上機嫌に両手を上げた。

「うん! 行こう! 行こう!」

 レオもまぶしい笑顔で両手をあげ、ピョンピョン跳ぶ。

「今日はいっぱい飲んじゃうぞ――――!」

「今日もでしょ?」

「ソウデース! 今日もデース!」

 シアンはおどけてそう言って、二人は笑い合った。

 レヴィアとオディーヌはそんな二人を眺めながら優しく微笑む。


 こうしてレヴィアの星はこの日、新たなフェーズに入った。

 後に若い二人の活躍は全宇宙に響き渡る事になるのだが……、それはまたの機会に。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る