4-11. 全宇宙の輝き

「世界樹よ、綺麗でしょ?」

 神崎は言った。

「世界樹……?」

「あの煌めく花、一つ一つが現実にある一つの星なのよ」

「えっ!? これが全部星!?」

 レオはただ美しいだけではない凄みの理由に気おされた。

「あなたの星は……、あそこね」

 神崎はそう言って指先を高く伸ばし、枝の先に着いた小さな光の花を指さした。その玉の光は他のにぎやかに光り輝く花に比べて見劣り、貧弱さを漂わせている。

「あれ……、なんでこんな……」

 心配になるレオ。これはきっと瞑想の時に見た巨大な花と同じものだろう。単体で見た時は綺麗に輝いて見えたが、他の星の大きく激しい輝きをまとった花に比べると見劣りしてしまう。

「この光はその星に生きる人たちの喜怒哀楽の輝きなの。人の数が多ければ多いほど、活性が高ければ高いほど強く輝いて見えるわ」

「僕たちの星はその辺が貧弱なんだね……。シアンが……うちの星を消そうとしたのもそれが理由?」

 レオは泣きそうな声で聞いた。

「そうね。宇宙のリソースは有限なの。活きが良く元気な星をどんどん伸ばすためには、生きが悪い星は間引かないとならないの」

「間引くって……、みんな殺しちゃうって……こと?」

「殺しはしないわ、新しい星に転生するだけ。もちろん、なるべく避けるようにしてるわよ。あなたの星も消されなかったでしょ?」

 レオは目をつぶり、押し黙る。何が正しいのか、この壮大なスケールの宇宙の営みをどう考えたらいいのか分からなかったのだ。

「宇宙はこうやって五十六億七千万年かけて発達し、こんな見事な花が咲き誇る世界に育ったのよ」

 レオは偉大な世界樹を見上げ、ふぅと大きく息をつく。そして、その壮麗な光のファンタジーに魅せられ……、また目をつぶった。


       ◇


「それで……、シアンはどこにいるんですか?」

 レオは神崎を見て言った。

「この無数の輝きの中の一つが……あの子の物よ。あなたにそれが見つけられるかしら?」

 数千兆個にも及ぶ無数のきらめきの中から『シアンを探せ』と言う神崎。その目にはやや挑戦的な色があった。

「えっ!?」

 予想外の展開に言葉を失うレオ。

 どう考えても無理だ。そんなの砂浜の中から一つの砂粒を見つけ出すようなものだ。できる訳がない。

 しかし、諦めたらオディーヌもレヴィアも破滅だ。絶対シアンには会わねばならない。

「シアーン! 僕だよ、レオだよ!」

 レオは必死に叫んた。

 しかし、世界樹には何の変化もない。

 レオは焦り、必死に考える……。シアンは目の前にいる。でも、どれがシアンか分からない……。居るのに会えない、そのもどかしさがレオを苦しめる。

 その時、別れ際のシアンの言葉を思い出した。

 そして、大きく息を吸って気持ちを落ち着けると、

「シアノイド・レクスブルー! 僕が来たよ!」

 と、大声で叫んだ。

 神崎は驚いてレオを見つめる……。

 直後、世界樹が揺れた。

 そして幹の一番根元がまぶしく光り輝く。

「シアーン!」

 レオは光に走り寄り……、直後すうっと消えていった……。


       ◇


 レオが気がつくと、暗いゴツゴツとした岩だらけの荒野にいた。周りを見回すと満天の星々が広がり、天の川もくっきりと流れている。しかし、ただ一つ、違うものが夜空に浮いていた。

 赤くボウっと光る奇妙な巨大構造体が夜空高く浮いていた。レオはしばらくなんだか分からなかったが、ジーッと見つづけて、それは太陽を覆う三本の巨大な幅広のリングである事に気づいた。大きさが少しずつ違うリングは六十度ごと角度をつけて交差されており、まるでカゴの目のように、巨大な正三角形が夜空に浮かんで見える。

 レオが吸い込まれたのは世界樹の根のところだった。つまり、この世界は多くの世界の根底に当たるに違いないが、あの太陽サイズの超巨大リングが何のためにあるのか、レオには想像もつかなかった。

 周りを見回すと、レオのいる星は極めて小さく、言わば小惑星で、空気もない事に気がついた。レオは一瞬焦ったが、自分の周りにシールドが張られているのを見つけ、ホッとする。

 極めて弱い重力の中、ゆっくりビヨーーンと飛び上がってみる。どこまでも高く浮かび上がり……、そしてゆっくりとまた戻ってきた。

「おーい! シアーン!」

 レオは叫びながら斜めに飛びあがる。

 ジャガイモのような形をした小惑星は、ゴツゴツとした岩肌が続くばかりで、レオは不安になってくる。

 と、その時、ジャガイモの目の様なくぼみに青い光を見つけた。レオは慣れない低重力の中、何とか身体をコントロールしながらくぼみへと降りていく。

 くぼみの奥底には大きな水晶の結晶が生えていて、それが青く光を放っていた。その清涼さを感じさせる青い結晶は、荒涼とした小惑星で唯一シアンを感じさせてくれるものだった。

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