3-19. アレグリス始動
ヴィクトーの精力的な活動でスタッフも集まり、受け入れ態勢が整い、零も転職してきて、いよいよ移民受け入れの日がやってきた。
移民受け入れ所の奥の広間で、レオは木箱の上に乗ってみんなの前に立った。
約五十人のスタッフが雑談をやめ、一斉にレオの方を向く。
「大将! たのんます!」
ヴィクトーが太い声をあげた。
レオはみんなを見回し……、とてもうれしそうにニコッと笑った。
「みんなありがとう……。言おうとしたこと、いっぱいあったんですが、全部忘れちゃいました……」
そう言ってちょっと目を潤ませて下を向いた。
「レオ! 頑張って!」
オディーヌが優しく掛け声をかける。
レオは大きく息をついて、しっかりとした目でみんなを見回して力強く言った。
「言いたいことはただ一つ……。貧困や奴隷のない国を作りましょう! 人が人を虐げるような世界はもうやめましょう! みんなで理想の国を作りましょう!」
レオは小さなこぶしをグッと握って見せた。
パチパチパチ!
湧き上がる拍手。
「レオちゃーん!」
若い女の子が数人声を合わせて掛け声をかけ、レオは赤くなり、あちこちで笑い声が上がる。
「お前ら! 国王陛下に失礼だぞ!」
ヴィクトーは怒るが、みんな楽しそうに浮かれていて誰も言う事を聞かない。
待ちに待った移民開始の日、それはスタッフのみんなにとっても待望の日だったのだ。
「では、端末のチェックスタートしまーす!」
零が声をかけ、担当のスタッフが移動していく。
「レオ様すみません、私の指導が行き届かなくて……」
ヴィクトーはレオに謝った。
「いやいや、嫌われるよりいいですよ」
そう照れながら答えた。
「ああいう子がいいの?」
オディーヌが真顔で聞く。
「えっ? いいとか悪いとかないよ……」
困惑するレオを見て、レヴィアは言った。
「大丈夫、オディーヌが一番じゃろ?」
するとレオは真っ赤になってうつむき、小さくうなずいた。
「わ、私はそんなこと聞きたかったんじゃないのよ」
赤くなって焦るオディーヌ。
「ははは、若いってええのう」
レヴィアはうれしそうに笑った。
◇
移民の受付が始まると、倉庫の前には長蛇の列ができた。数千人の人たちが押し寄せたのだ。衣食住完備、それは日々の食べ物にも困ってきたスラムの人たちには、まさに理想郷だった。
「最後尾はこちらでーす!」
プラカードを持った女の子が長蛇の列の後ろで声を張り上げる。
長時間並ぶことになっても移民希望者は誰も文句を言わなかった。それだけアレグリスへの希望は大きかったのだ。
移民希望者が倉庫の入り口を入ると、二十人くらいごとにまとめられてプロジェクターでアレグリスの情報の動画が流される。まず、レオがあいさつし、街の様子、入居するタワマンの部屋、配られるスマホの使い方、学校のシステムが案内される。
この動画が流される度に歓喜の声が上がり、中には涙を流す者もいた。
それが終わると宣誓の部屋に通される。そこではウソ発見器に向かって、犯罪は起こさないこと、国の発展に協力する事を誓ってもらう。予想に反してほとんどの人が無事通過していった。
次に生体情報を登録してもらい、スマホが渡される。お金のやり取りの仕方、国からの広報の受け取り方を覚えてもらう。
最後にタワマンの部屋割りを行う。スラムの地域ごとに近い場所になるように、不平等にならないようにヒアリングを行いながら部屋を割り当てていく。
これが終わると空間接続のドアをくぐってアレグリスへの入国となる。
初めてアレグリスの街を見た者は全員、タワマンを見上げ、その先進的な街の姿に驚き、しばらく言葉を失う。動画では見ていたものの、実際にその姿を見るとその威容に圧倒されてしまうのだ。
レオはそう言う人たちに声をかけていく。中にはレオの手を握りしめ、泣き出してしまう者までいた。
そのうちにレオは移民たちに囲まれ、胴上げが始まってしまう。
「国王陛下、バンザーイ!」「バンザーイ!」「バンザーイ!」
街に響き渡る万歳の声に合わせ、レオは空高く舞った。
澄み渡る宮崎の空に高く高く、大きく手を広げ、レオは理想が形になっていく実感に浸りながら何度も舞った。
星の命運をかけた賭けにレオはまさに勝ちつつあったのだった。
初日は予定時間を大きく超え、五千人を超える移民を受け入れることができた。
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