3-17. 新人絶好調
乾杯を繰り返し、ラストオーダーの頃には零はグデングデンに酔っぱらっていた。
「シアンの
「ブブー!」
「ウソだぁ! 姐さん全部わかってるし、無敵じゃないですか!」
「惜しいけど違うんだな。きゃははは!」
シアンも気持ちよさそうに真っ赤な顔で笑った。
「零、大丈夫?」
ジュースしか飲んでないレオが心配そうに聞く。
「これはこれは国王陛下! 陛下は偉大だ! その若さでなぜこんな大宇宙の要人に一目置かれるのだぁ!」
店内で叫ぶ零。
「お水貰いましょうか?」
オディーヌが心配そうに声をかける。
「これは王女様! なぜ王女様はそんなに美しいのですか? もうドキドキしっぱなしですよ!」
ナチュラルに口説き始める零。
「お主、そのくらいにしておけ」
そう言ってレヴィアは水を出して零に勧める。
零は受け取った水を一気にゴクゴクと飲み干した。
そして、レヴィアをジッと見る。
「な、なんじゃ? ほれちゃダメじゃぞ」
「レヴィア様! 見た目女子中学生みたいなのに、その存在感、何か秘めてますよね? 偉大な匂いがします!」
「おぉ、お主! 見る目あるのう! よし! 飲もう! カンパーイ!」
そう言って二人はまたジョッキをぶつけ、一気に空けた。
「くはーっ! 美味い!」
零はそう言って焦点のあわない目で幸せそうに微笑む。
レオとオディーヌは目を見合わせ、お互い渋い表情で首をかしげた。
翌日、オディーヌのところには記憶を失った零から謝罪のメールが届いていた。
◇
スタッフ面接の日、倉庫で準備を整えていると、一人の若い男がふらりとやってきた。ネイビーのマリンキャップをかぶり、年季の入ったカーキ色のジャケットを羽織っている。
男はテーブルを拭いているレオを見つけると、
「おい、小僧! 責任者を呼べ!」
と、横柄に怒鳴った。
レオは男を見上げると、
「責任者は僕だよ。なぁに?」
と、笑顔で返した。
「はっ!? お前のようなガキが責任者!? ふざけんな!」
男はテーブルをドン! と叩き、レオをにらんで喚く。
「歳は関係ないですよ。いい国を作ろうという情熱が全てです」
レオは一歩も引かず、丁寧に言い切った。
男はレオをにらんだまま動かない。
レオも笑顔のまま男の目を見据える……。
奥でシアンは指先を不気味に光らせて揺らしながら、男の出方をうかがい、倉庫の中には緊張が走った。
すると、男は相好を崩し、言った。
「お前、いい度胸だな……。悪かった。それで……。チラシ読んだんだが、いい事ばっかりしか書いてない。こんなうまい話あるわけがないだろ? 一体何を企んでるんだ?」
「企むも何も、この国の方がおかしいんです。貧しい子供が飢えて死んでるのに、偉い人は
レオは淡々と説明した。
「ほほう、こっちの方が当たり前……。お前凄いな……。だが、こんなきれいごと上手くいくはずがない。俺が化けの皮を引っぺがしてやる!」
男は吠えた。
「化けの皮って?」
「そうだな……。例えば衣食住完備というが、食べ物はどうするんだ? 十万人ということは毎日三十万個ものパンがいるぞ。どうやって調達するつもりだ?」
男は勝ち誇るかのように言い放つ。
レオはプロジェクターをいじり、スクリーンにパン工場紹介の動画を流す。
「うちにはパン工場があるんだよ。一万平米で生産量は一日五十万個」
動画では、次々とベルトコンベヤーの上を丸いパンが流れてくる様子が流れる。
「何だこれは……」
圧倒される男。
さらにレオは奥からロールボックスパレットに満載された二千個のパンをゴロゴロと引っ張ってくる。そして一つとって男に渡した。
男は無言で受け取り、匂いをかいで一口かじった……。
「美味い……、何だこの美味いパンは!?」
日頃大麦まじりの硬いパンしか食べていなかった男は、白くふわふわで芳醇なパンに絶句する。
「これをね、欲しい人に欲しいだけ配るんだ」
レオはうれしそうに言った。
「配るって……、無料か?」
「衣食住にお金は取らないよ。そう、アレグリスの憲法に書いてあるからね」
見たこともない巨大な工場で作られる、食べたことのない上質なパン。そしてそれを無料で配ることをうたった憲法……。その圧倒的な先進性に男は言葉を失った。
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