あなたが見た情景・追録
ななくさつゆり
情景#01 目で景色を抜く
休日は橋を歩く。
二日酔いのせいで午前中は使い物にならなかったから、正午を過ぎたあたりで体を起こし、鏡のまえに立って頬をパチパチと叩き、肌のハリを確かめた。最低限の支度を済ませて近所を散策。川沿いに出て橋を渡り、そのまま買い出しにいく。
正直に言うと、別に橋を渡らなくてもよかった。
逆方向に歩けばスーパーがあるから。
それでも、川の上に伸びた道を歩いて渡りたくて、休日に外へ出てしまえば、自然と架けられた橋の方に足が向く。
橋の上を歩くのが妙に好きだった。
向こう岸までゆく途中、自分の左右を抜ける空と川を実感できてしまうから。
敷かれた道の表面は舗装されたレンガ敷きで、往路だと、橋に立つ自分の右側が海。自分の左側が山に通じていた。山の方からやってくる風が海へと抜ける。
ふと、海に開かれた方の空を見ると、運よく渡り鳥の群れが飛び立つところに出くわした。今しがた離陸したかのように中空を横切り、上向いて高く高く飛んでいく。空の青に幾つもの爽快な白い点を打ち、白点を引きずるようにして翔け上がった。
そこで、自分はまばたきをする。
暗いはずのまぶたの裏に、空の青と鳥の白い点が焼きついていた。
目を開くと、そこに渡り鳥の群れはいない。
それでも、もう一度目を閉じれば、そこには渡り鳥の群れが容易に浮かびあがる。その余韻をほんの一瞬だけ楽しみ、それから軽やかに時間をかけて橋を渡った。
自分の目はカメラレンズのように。
目の瞬きはシャッターのように。
そうして目の前のあり様を切り取り、爽快に思える瞬間を掴むことができたら、今度はそれを誰かに伝えたくなる。
このことに気づいたとき、次に欲しいものが決まった。
それを伝えるすべがほしい。
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