第7話 蘇生魔法

助けた少女の名前はサラ。

俺は今、サラの案内で彼女の村へと向かっていた。

薄暗い森の中、迷わずまっすぐ進む事を不思議に思い彼女に聞いてみる。


「なあサラ。こんな森の中だってのに、どうして方向が分かるんだ?」


「あ、それはこれがあるからです」


彼女は腰巻に掛けられた巾着袋から、小さな白い石ころを取り出した。


「えーっと、それは?」


俺の質問にサラはきょとんとした表情で此方を見つめる。

その顔を見て、どうやら失言だった事に気付く。

恐らく彼女の手にした物は、この世界において常識的な物なのだろう。


「や、すまない。魔法の研究ばかりしててね。そのせいか色々と常識に疎くって」


「魔道士様でも知らない事ってあるんですね」


彼女は微かに微笑んだ。

その表情を見て、嘘をついた事に胸がチクリと痛む。


異世界人という肩書は諸刃の剣だ。

状況次第ではメリットになる事もあるだろうが、トラブルの元になりうる事を考慮すると、迂闊に吹聴するのは危険極まりない。


だから余程大きなメリットでもない限り、俺は誰にも知らせず生活していくつりだ。


「これは陰石の欠片なんです」


「陰石?」


「はい。この欠片を持ってると、元になった陰石の方角や距離が分かるんですよ。はい」


そう言うとサラは俺に欠片を手渡してくる。

手を伸ばし受け取ると、成る程と納得してしまった。

手にした途端、この欠片が何かに繋がっているのが感じられたからだ。

恐らくその先が陰石のある場所なのだろう。


「凄いね、これ」


「森が近い田舎の村なんかだと、必需品なんです。これがあれば森に入っても迷子が防げますから」


森があるなら、当然そこでは狩猟が行われる。

仮に奥深くに分け入っても、陰石の欠片があれば帰り道に迷う心配がなくなる訳か。

便利な物だ。


サラに欠片を返そうとして、彼女と目が合った。

俺から欠片を受け取った彼女は、思いつめた様な顔になり俯く。


「どうかした?」


俺の問いかけに彼女は顔を上げ、恐る恐ると言った感じに言葉を紡ぐ。


「あの……魔道士様は。その……人を生き返らせたりとかは……そんなの……無理ですよね?」


「……」


流石にそれは無理だろうと考え、俺は思わず渋い顔をしてしまう。


そんなもの在る訳がない。

そうは分かってはいても、それでも一縷いちるの希望にすがってサラは口にしたのだろう。

だが彼女は俺の表情を見て察し、悲しげな顔で俯いた。


蘇生魔法か。

確かにそれがあれば、殺された村人達を生き返らせる事も出来るのかもしれないが……


流石に無理だとは思うが、一応駄目元で調べてみる。

頭の中の図書館の扉を開け、蘇生関連を意識して検索してみた。


「まじか!?蘇生魔法あるじゃねぇか!?」


「えっ!?」


無いと高をくくっていた蘇生系の魔法を見つけ、驚きから思わず叫んでしまった。

その声を聞いたサラが目を見開いて俺を凝視する。


「じゃ、じゃあ!!」


「いや、すまない」


サラは歓喜の声を上げようとするが、俺の言葉がそれを遮った。


「残念だけど、死んだ村人達を生き返らせる事は出来ない」


「どうして?今あるって!お、お金だったら頑張って払います!だから皆んなを!!」


「違うんだサラ。お金の問題じゃないんだ」


俺の服の裾を掴んで必死に訴えるサラを見て、胸が締め付けられる様な気持ちになる。


「ぬか喜びさせてしまってすまない」


「そんな……」


蘇生魔法は確かにあった。

それも複数。

だがそれは、どれも死んだ村人に使える様な代物ではなかった。


――1つは時間が経過した遺体には使えず。


――1つは明らかに無茶そうな触媒を求められ。


――最後の1つに至っては、蘇生させると人外に変貌する始末。


とてもでは無いが、サラの期待に応える事は出来ないだろう。


「本当にすまない」


「……いえ、良いんです」


サラは力なく小声でそう返すと、俯き気味に再び歩き出した。

何か声をかけてやりたいが、言葉が思い浮かばない。

結局タラン村に着くまで、俺は黙って彼女の後を付いて行く事しか出来なかった。


全く……我ながら情けない。

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