第4話 大事なモノを失いました

「ない!……ない!!」


朝靄漂う静謐な草原に、俺の絶叫が響き渡る。

だがそれも仕方のない事。


何故なら――無いのである。


え?何が無いのかって?

何が無いってナニが無いのだ!

ナニが!!


いかんいかん、興奮して禁止ワードを連呼しまった。

落ち着いて説明するとこうだ。


朝起きて尿意を催した俺は、シェルターからでてチャックを降ろした。

そしてその時初めて気づく。


本来股間にぶら下がっているはずのシャイボーイが、突如行方不明になっている事に!


しかも玉ごと!!


はっ!いかんいかん、また興奮してしまった。


兎に角、俺の大事なナニが無くなってしまっているのだ。

このままでは排尿もままならない。

下手をしたら膀胱破裂であの世行きだ。


そうこうしている間に、便意まで催してきてしまった。

正に絶体絶命のピンチ!


いや、慌てるな

何も肛門までなくなった訳じゃ無い。

とにかくデカイ方だけでも出してお茶を濁さねば。


――カポーン。

――ホーホケキョ。


「ふー、スッキリした」


ウォーターをウォッシュレット代わりにして尻を清め、生まれたブツはマッドマニピで地中に埋めておく。

我ながら完璧な魔法の使い方だと惚れ惚れする。


いやまあそんな事はどうでもいい。

結論から言うと、ションベンはデカイのと一緒にケツから出てきた。


――とりあえず膀胱破裂の心配は無くなった訳だが。


視線を下に下ろす。

ツルッツルだ。

三十年間苦楽を共にした相棒と共に、何故か毛までなくなっていた。


「……まあいっか」


どうせ排泄器官としてしか機能していなかったのだ。

それもケツが担ってくれるというならば、それ程大きな支障はない。

むしろ無いなら無いで、性交渉への余計な未練が断ち切れると言うものだ。


さらば我が相棒!

俺は天へと敬礼を送る。


「って、んな訳あるかああぁぁ!!」


自分を無理やり納得させようとしたがやっぱ無理!

余りにも理不尽すぎる。


相棒には無限の可能性が秘められていた。

30年間不振だったとしても、静かに牙を研ぎ続けた孤高の存在。

可能性の獣。

それが俺の相棒だった。


それなのに……それななのに――


「ぐぎゅるるるるる」


その時、俺の中の獣が雄叫びをあげる。


……腹減った。

食えそうなもの探そ。


どんな悲しみや苦悩も、空腹には敵わない。

この日俺は一つの真理に辿り着いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る