第20話 百人斬り
「もらっ……グェッ!」
飛び掛かって来た男2人を普通のフックと裏拳で片付ける。切り込み隊長にデカい戦力を置いていないのなら、体力を消耗させてラストスパートをかけるつもりなのだろう。いや、そもそもそういう関係ではないのか。
「シッ!」
息を吹きながら前足を踏み込んで、肩を入れた左のストレートを後ろの女に叩き込む。ジャブで距離を測っている暇はない。全て一撃必殺のつもりで打ち込め。
足を交互に振り上げて、左で1人、右で1人。顎をカチあげて飛んだガリガリの連中は、着地までの間後ろの敵の視界を阻害する。体を捻って真横のデブの脛を蹴り潰し、手に持っていた金属バットを奪って近づいてきたもう2人もろとも頭をカチ割る。そして即座に、フラっとよろめいて倒れるその体を駆け上がると、跳んで上空から状況を確認した。
「なるほど」
後ろの方で、余裕をこいて俺を観察しているヤツがちらほら見える。あいつらが生徒会のメンバーだろうか。他の連中とは雰囲気が違う。
どうせ全員ブチのめさなきゃいけねぇし、あの中の誰かに仕掛けたいんだが。恐らく技能を無闇に発動したりはしないだろう。さて、どうしたもんか。
着地の勢いで足元に居た男を勢いよく踏み潰す。血を噴き出しながら吹っ飛び、頭を後続の顔面に叩きつけて倒れる。更に拳を握って動き出そうとした時、タイミングを狙っていたであろう雷が俺を直撃した。とうとうぶっ放してきたか。本番はここからだ。
痺れて強制的に開かれた拳を握る為に、まずはその雷の出所を探る。なるほど、結構遠くにいるみたいだ。あの女、別のヤツに当てても構わない気で撃って来たな。やっぱり、あくまで俺を殺すために集まっただけで、こいつら同士は仲間じゃないってか。それでこそ変異人類だ。
「ヒートォッ!」
1分で
拳を握り、デカく息を吸い込んで一直線に電気女の元へ駆ける。途中の兵隊は無視だ。もしも電気女より強ければ俺は返り討ちにされる。だから
「おご……っ」
迫りくる、多くの
ヒートを仕掛けて突っ走る。邪魔するヤツを、正面から殴り抜けて投げ捨てる。グチャリと纏わり付く血を払いながら、拳は的確に弱点を叩く。屍を踏み締める脚は、確実に意識にトドメを刺す。これまでの人生で何万発も繰り返したんだ。急所を間違えるワケがない。
「ウソだ……」
「悪いな」
直前に放った一撃の回転を使い、スピンしながら倒れ込むように首を蹴り付ける。吹っ飛んで、叩きつけられた音にようやくヤツらは反応を示した。気が付けば、倒した敵は30人くらい。使った時間は15秒程度。
目の前の女が後ずさる。間髪入れずにぶん殴りながら周囲の攻撃を探る。こいつら、流石に警戒しだしたな。それとも、あとは戦い慣れたヤツってことか?少し距離を取って囲い込むように動いている。
1……、2……。俺にとって命に等しい時間が、無意味に消費されていく。そんな焦りを感じた時、突如として空からマッチョのハゲが降ってきた。体は、俺の二回りはデカい。
「テメー調子こいてんじゃねぇぞ!」
「い……ッ!?」
受け止めた拳は、以前に喰らったダンプカーの衝突よりも重たい。こいつ、さっきい後ろで俺を観察していた一人だ。上等、テメーから来てくれるとはありがてぇ。おまけに、こいつはメチャクチャ強いぞ。ラッキーだ。
腕を潰されかけた一瞬でヒートの対象を移し、握って固めたそれを叩き込んだのは周囲の連中だ。
「ドラララァッ!!」
マッチョの拳を2発止める間、俺は周りを10人ブチのめした。見えたのは残光だけか?お前が防ごうとしてるのは、もう叩き込んた拳だぞ。
「グ……、オェ……ッ」
今度はどこかから弾丸のように鋭く冷たい氷の礫が飛来する。それをマッチョとポジションを入れ替えて防ぐと、意識を失った体を投げ捨てて走る。
そいつを守るつもりか、それとも今がチャンスと偶然思惑が重なったか。3人が一度に攻撃を放ったが、そのうちの一番顔がいいヤツにヒートを仕掛けてスライディングで通り過ぎ、振り向いた顎へ下から逆立ちの勢いを乗せた蹴り見舞って、跳ね起きた空中で残りの2人を蹴りのめした。どうやら当たりを引いたみたいだ。
「もう、ほとんど残ってねぇな」
「お前、いったい……」
「うるせぇ」
喋った女の口をぶん殴って走り、ようやく氷男に辿り着きそうな距離。鏡のような氷膜をいくつか空中に浮かべ、それに乱反射させるように礫を放つと加速度を伴って俺の脚を貫いた。傷は、かなり深い。
「お前早く死ねよ!コラァ!!」
連射した氷は別々の軌道から俺を襲ったが、ヒートを仕掛けて全てを蹴り返し周囲の連中の体に着弾させる。うわ、あれは痛ぇぞ。
「シュッ!」
小さく息を吐いて、守るように展開された分厚い氷膜をブチ抜き顔面に渾身のパンチをくれてやる。残りは10人程度、時間は10秒くらい。
「や……っ」
「遅えよ」
立ち向かってきた最後の生徒会らしき女は、どうやら支配の能力らしい。体を操られたが、操られたままぶん殴って吹き飛ばす。技能が残っている僅かな時間を使って後ろの連中との距離を詰めると、それぞれに2発ずつパンチを叩き込んで、振りかぶった勢いで誰かの武器のナイフを拾い、遠くの敵に投げ刺して。
そして、ようやく全ての音が止まった。
「……ふぅ」
多分、ちょうど1分くらい。ざまぁみやがれ、俺の勝ちだ。
振り返ると、施設の入口の前でポケットに手を突っ込み俺を見ている安芸先輩を見つけた。遠くて表情はよく見えないが、流石にあの余裕な面はしていないハズだ。
「忘れないでくださいよ、ステーキと寿司」
呟いたのは、もう大声を出す体力が残っていないからだ。流石に相当疲れた。というか、もし俺がヒートを使ったヤツにもう一回襲われたらやべぇな。あの空から降ってきたマッチョのハゲくらいしか顔覚えてないぞ。
……ダメだ、もう考えらんねぇ。傷がやべぇ、血もやべぇ。死ぬかも。
ドクターの番号訊いといて、ホント良かった。強がって曲がり角まで歩いたけど、もう本当に一歩も動けない。
チクショウ、今日はなんて日だ。
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