第25話 散髪屋での耳掃除のおはなし
春、おれは4月からの新生活のために地元の散髪屋へと向かった。その散髪屋はおれが小さい頃から通っていたところで同級生の父親が営んでいたところだ。
「いらっしゃいませー」
店に入ると聞こえてきたのは想像に反して若い男の声だった。
「もしかしてCか」
声の男には同級生の面影があった。
「え、もしかしてZか。中学校の卒業式ぶりだな」
「久しぶり。おじさんはいるの。髪やってほしいんだけど」
「いま晩御飯の材料を買い物に行ってる。最近は親父が晩御飯作ってるんだ」
「そうか。じゃあ出直すよ」
「まぁまて。Z、練習台になってくれないか」
「お前が髪切るのか」
「もちろん。専門学校では優等生だったよ」
「じゃあ頼むよ。どうせやってもらおうとおもっていたし」
「はーい1名様ご案内。お席へどうぞ」
自分で優等生というだけあってCは見事な腕前だった。
「はいカットあがり。仕上がりにご満足いただけましたか」
「ああ満足だよ」
「そういってもらえると嬉しいな。よし、サービスで耳掃除もしてやろう」
「耳掃除を散髪屋でやるのかよ」
「親父が若いころはやってたらしいぞ。一応俺も教わったよ」
「なんか不安だな」
「うし、いくぞ」
「まずは耳のふちのみぞ、ここは結構溜まりやすいぞ」
「いままで触れなかった部位をかかれて少しくすぐったいな」
「それじゃ耳の中もやってくぞ」
すると耳の中でぼりぼりと大きな音が響く。
「最近耳掃除してなかっただろ。けっこう溜まってるな」
耳掃除を他人にやってもらうのは久しぶりだがかなり気持ちいい。これからもこの店に通うことをおれは心に決めた。
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