第23話 突然の告白


「圭介!」


 一年生のクラスがある階に走って戻る。廊下で圭介を見かけた。


「ん? なんだ唯人と誰?」

「こいつの事はどうでもいい。麗華見なかったか?」

「麗華ちゃん? あぁ、さっき慌てて向こうに走って──」

「さんきゅー!」


 俺は圭介の話を途中で切り、圭介の指さした方へ走り出す。


「えっと、誰かわからないけどさんきゅー!」


 槇原も俺に続いてついてくる。自分では足が速いと思っていたけど、槇原も早い。

 もしかして、俺の足遅くなった?


 廊下を走って数分、窓から中庭で麗華を見つけた。ベンチに一人座って、顔をハンカチで隠している。


「麗華ちゃん、一人でベンチに座っている姿も可愛い……」

「お前、頭大丈夫か?」

「頭? お前よりも成績はいいが、それが?」

「なんで成績の話になるんだよ。麗華の事だ、お前何考えてるんだ?」


 校舎から中庭に移動する間、槇原に問いかけてみる。

 少しの間沈黙していたが、頬を紅潮させ槇原はうっとりとした目で俺を見てくる。


「恋……。麗華ちゃんに一発もらって、ジーンってきたんだ」


 そりゃそうだ。ビンタされたもんな。


「でな、こぅビビッと来たんだ。顔が熱くなるもの感じた」


 だから、ビンタもらったからだろ?


「あの目。少し吊り上がった大きな瞳。その大きな瞳で俺を見つめてくれた……」


 いやいや、見つめてないだろ? お前を睨んでいたあの氷のような目がいいのか? 


「あの口調。薄紅色のきりっとした唇……」


 薄紅色? そんな色してたっけ? それにお前をバカにした口調がいいのか?


「そして、あの表情。そのすべてが俺を虜(とりこ)にした」


 ……お前の前で仁王立ちし、凍てつく波動を出しまくっていたあの表情?


「あと、ポニーテールが良く似合っていたし、声も可愛い……。あ、それに──」


 何だこいつ、ぼそぼそと独り言を……。

 ダメだ、昨日のこいつとは違う人格になってしまった。

 麗華……。お前は一体何を植え付けたんだ?


「おい、いつまでボケてるんだよ。いくぞ」

「まだ麗華ちゃんのすばらしさを伝えきれてない! それから──」


 槇原って変わったやつだけど、悪い奴じゃない?

 いや、悪いやつだ。俺たちをバカにした。

 

 中庭に移動し、やっと麗華のことろにたどり着いた。


「麗華」


 麗華はハンカチを顔からおろし、俺たちに視線を向ける。


「唯人……。さっきはごめん。誰にも言わないから、誰にも……」

「いやいや、まずは俺の話を聞け」

「……聞きたくない! だって、唯人は女の子よりも男の子が──」

「ちがぁぁう! なんで俺がこんな奴に! 俺は女の子が好きだから!」

「そうだよ、麗華さん。こんな男よりも麗華さんの方が美しい……」


 ……槇原? 何その口調。お前絶対におかしいよ。


「あんた、昼にあんなことして──」

「申し訳ない! 謝って済む問題じゃないのはわかっている。でも、俺は心を入れ替えた!」

「……信用できない。あんなことするんなんて、ひどいよ」

「本当にすまん。だからこうして、頭を下げに来たんだ!」


 え? 違うよな? もともとここに来たのって、その件の事じゃないよね?


「唯人、どうなの?」


 頭を下げている槇原。そして、俺に視線を向けている麗華。

 どうしろと……。


「あぁー、もういいよ。わかったよ。槇原も麗華に謝れよ。俺たちの事バカにしただろ」

「すまん! 二度とバカにしない! 悪かった!」

「麗華、これでいいか?」

「唯人がいいなら、私は……。それで、屋上であんたたち何していたの?」


 そうそう、本題はそこです。


「俺が槇原に呼び出された。で、話の途中で麗華と会って、今に至る」

「槇原君? だっけ。なんで唯人を呼び出したの?」


 ベンチに腰かけている麗華。麗華の目の前で頭を上げる槇原。

 んでもって、槇原の隣に立っている俺。


 槇原はそのまま片膝をつき、麗華に顔を見せる。

 そして、槇原の手が、麗華の手に重なった。


「好きです。恋に落ちました」

「……」

「……」


 しばしの沈黙。突然、槇原が麗華に告白した。

 出会って数時間。恋に落ちるのに時間は関係ないのか。


「えっと、ごめん。よく聞こえなかったし、意味が理解できなかった。あと、この手どけて」


 槇原はあっさりと麗華から手をどけ、手を組む。まるで懺悔をしているポーズ。


「俺は槇原俊平(まきはらしゅんぺい)。麗華さんに恋をした、一人の男です」

「ゆ、唯人?」

「お、俺に振るなよ! 自分で何とかしよろ。あ、おれ用事を思い──」

「逃げないで! ここにいて! お願い……」


 いつもは強気の麗華。でも、今は半分涙目になって、おびえた猫のようになっている。

 え? なんで? いつものように言い返せよ。


「俺と、真剣に交際を──」

「ごめん。私、好きな人いるの。だから無理」


 麗華の視線は槇原ではなく、俺に向いている。

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