お出かけ
「あ、キール殿おはようございます。流石キール殿ですね。これだけの社員に昨日のこと尋ねられましたよって・・・あれ?」
先ほどまで居たたくさんの社員が蜘蛛の子を散らすように、一斉にどこかへ行き、その場にはラーファ1人となっていた。
配達会社グリフォンフライ社員社長大好き会において、社長は遠巻きに見守るものであり抜け駆けしてはならないという鉄の掟が存在するのだ。
「あはは、ラーファ、そんなに気を遣わなくてもいいんだよ。分かってるんだ、最近社員から避けられてるんだよ」
「いえ、決してそんなことはないのですが・・・」
周りを見渡すと、社員達はこちらを見ながら必死に首を振っていた。
だったら、普通に喋ればいいのに・・・
「それで、キール殿今日はどういたしますか?」
「うーん、今日は特にすることもないから、お昼から飲んじゃおうかな」
今日も・特にすることのないキールは、ラーファをお酒に誘った。
「そうと決まれば、早速仕事終わらせるからちょっと待ってて」
キールがそう言い、社長室に駆け込みしばらくして、すぐに出てきた。
「もう、終わらせたのですか?」
あまりの早さにラーファは驚いた。
「うん!お酒が待っているからね」
キールがフンスっ!と鼻息を荒くして、待ちきれないとばかりに階段を駆け下りてきた。
それから、キールらは酒場「ゴールドラッシュ」に来ていた。
「おい、最近見ないと思っていたが、遂に来たな」
「念のため、毎日張っといてよかったな」
「今日は、悪魔の話か、対処の話か、いったいなんだろうな」
ラーファのよく聞こえる耳は、冒険者達のひそひそ話を受け取っていた。そして、ラーファはハッとさせられた。
なるほど!ただお酒の席に誘ったのではなく、何かしらの事件についての話をするために来たのか!・・・もしかして私は今、試されているのか!!!
ラーファは、背筋を少し伸ばした。
「そう言えば、先日のジャイアントヘルフロッグなのですが、異常に俊敏でしたよね。あれって、何故なのでしょうか」
しばらく、変哲も無い会話をしたあとラーファが切り込んだ。
周りの冒険者も遂に来たかと、店内の緊張度が増した。
「あー、そうね。あれね、生まれつきじゃない?」
ニコニコ。お酒が入っているのと、知ったかぶりでいつもの3割増しで笑顔だった。
「生まれつきですか?てことは故意的に生みだしたものがいるということですか」
「故意的に生まれたかどうかは分からないけどね。あ、マスター、このシカラの実を2人前ください」
ラーファの質問に話半分で返しつつ、話題転換のために、新しいおつまみの注文をした。
「2人前にしては少ないんですね」
ラーファが出てきたシカラの実に対し失礼なことを言った。
「ああ、シカラの実は人間には大丈夫なんだけど、少し毒素があるんだ。そのピリッと感が美味しいんだけどね。虫とかに食べられないように進化するって生命の神秘だよね」
のほほんとしたキールの表情とは裏腹に、ラーファを含めた冒険者達の表情は険しくなった。
「あ、生命の神秘と言えば、虫って力持ちって知ってた?種類によっては自分の50倍の重さの物を運べるんだって。まぁでも、それより強い圧倒的な・・例えば人間とかの力には負けちゃうんだけど」
キールはどこかで聞きかじった知識を自慢げに披露した。
「じゃあ、今日はこのくらいにしてお開きにしようか」
太陽が下がり始め、辺りが薄く黄色に染まり始めた頃、2人はそのまま解散した。
5日目、出社するなりラーファに受付の子が手紙を渡した。
開いて読んでみると、内容は冒険者登録しており、なおかつ上位の者だけの強制召集であった。
「何々?第三種緊急依頼?・・あぁ、これが噂の・・えーと、出発は明日か」
ラーファが依頼を読んでいると、ちょうどキールも出社してきた。
「おはよう~」
「おはようございます。キール殿突然で申し訳ないのですが、明日は、緊急招集がかかってしまい、一緒に居ることが出来なくなってしまいました」
「おっけー、気をつけてね」
まだ少し、寝ぼけているのかキールは目を擦っていた。
「では今日は、何をしますか?」
「せっかくだし観光でもしようかな。昨日の帰りに良い場所を見つけたんだ」
満面の笑みで今日も仕事をサボる宣言をした。
「わかりました。お供します」
ラーファは辺りを見渡し、せわしなく動いている社員達を見て、色々とすごいなと改めて感心しながら、ドアを出て行くキールの後を追いかけた。
「それで、どこへ行くのですか?」
「王城の裏にね、すごい綺麗な公園というか広場を見つけたんだ。入場料は少しするけど、遠目から見た限り払う価値はあると思うよ」
ラーファの質問に子どものようにウキウキで答えた。
王都をしばらく歩いてやっとたどり着き、入場料を払って中に入ると、そこは王都の喧噪を忘れさせるほど静かで幻想的な緑が生い茂っていた。
「本当に綺麗ですね。なんだか故郷を思い出します。」
エルフにとって自然は生活の一部であり、親しみに満ちていた。
「そうだね、僕も田舎出身だから懐かしいよ」
2人はその自然と、会話を楽しみながら進んでいった。
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