討伐

3日目、今日も昼前に会社に着いたキールをラーファが待ち伏せしていた。




「どうしたの?」


キールが表のドアを開けたすぐの所に立っているラーファに尋ねた。




「あの・・一緒に討伐依頼をこなしてほしいのですが」


よく見ると手には、冒険者ギルドでもらってきた依頼書を持っていた。




「・・・え?おれ?他の人じゃなくて?」


キールはひとしきり辺りを見渡し、人がいないことを確かめると、人差し指を自身に向け首をかしげた。




「忙しいのは百も承知ですが、そこをなんとか!一緒に戦うことで学べることもあると思うんです。あわよくば指導してもらったり・・・」


綺麗な90度で頭を下げキラキラ賭した目で見上げてきた。




「えーと、そういうのはグランツの方が向いてると思うよ?」


キールは武術の才能も無ければ、魔法の才能も無い。よって人に教えることなどもってのほかだったのである。




「そのグランツさんからの提案でした」






グランツ!!やってくれたな、あの怪獣め






キールは断り切れずに、馬車で2時間ほどの森に来ていた。




「今回の目的は、Aランクの依頼で、ジャイアントヘルフロッグの討伐です。キール殿には造作も無いことだとは思いますが、私も念のためにランクを落として依頼しておきました」




「そんなことないんだけど、下手したら一瞬で死ぬよ?もっと安全なやつで良かったのに」


キールは自分の死に様を何個も思い浮かんでいた。




「またまたご冗談を」


アハハハとラーファは笑って相手にしなかった。




「アハハじゃなくて・・・」


キールは何を言っても無駄なのかと悟り始めた。




今日が命日なのかも、皆、俺が死んだら骨は海に流してくれ。




そうしてキールが肩を落としながら歩いているとジャイアントヘルフロッグの生息地である湿地帯に到着した。




ここに来るまでに既に何匹ものモンスターをラーファは倒しており、その度にどこが良かった、どこが悪かったなどのアドバイスを求められた。




しかし、当然のことながら良いところも悪いところも分からないので「もう少し搦め手とか使った方がいいかなぁ」などと、曖昧な表現でごまかすのであった。




しばらく歩いていると、ふとキールはジャイアントヘルフロッグがどんなモンスターなのか知らない事に気がついた。




「ねぇラーファ、今回のターゲットのモンスターってどんな特徴なの?」




「ジャイアントヘルフロッグですか?奴は3メートルほどの高さの蛙に似たモンスターです。単独行動を好み毒を用いて戦います。そしてその身体を透明にする事で周囲に擬態します」


流石冒険者と言わせるかのように、ジャイアントヘルフロッグの特徴についてスラスラと語った。




「うんうん、そうだね」


ニコニコしながらキールは自分の無知を隠していた。




「ところで、何故今その確認を?・・・・ハッ!まさかそこにいるのですね!」


ラーファは敵を目の前にして、臨戦態勢を整えない自身に忠告してくれたのだと勘違いし、杖を構えた。




「え、いいy」




ドぽんっ・・・ジュワアアアア・・・




キールが否定しようとすると、それを遮るように低い音が鳴り、ラーファが避けるような動きをとると、紫色の液体がキールの顔をすれすれで横切った。




キールが振り返ると、地面が煙を上げ、付近の草は黒く炭化していた。




「わあお^q^」


キールが驚きのあまり思考を放棄していると、先ほどの攻撃から位置を特定したのか、ラーファは魔法で攻撃しようとしていた。




「精霊の扉を開き、彼の者を切り裂け!風の刃ウィンド・カッター!」


ラーファの杖から魔法陣がいくつも生まれ、モンスターがいるであろう方角に勢いよく魔法が飛んでいった。




「なに!」


しかし、魔法はただ遠くの木々を切りつけるだけで、その軌道にいるはずのモンスターには当たらなかった。




「今のを避けるとなると、相当機動力があるはずだが・・・ジャイアントヘルフロッグは足の遅い魔物だぞ・・・」


ラーファは、今までと違う異常事態に冷静に考えていた。




ドぽんっ


再び、毒液がラーファを襲うが、ラーファもそれを身のこなしで回避し、状況は進まなかった。




「こんなときキール殿だったら・・・ハッ!」


ラーファが何かに気づいたその瞬間




「うわあああああ」


キールが叫んでいた。




何事かと振り返ると、キールの体中が紫色の液体で覆われていた。




「キール殿大丈夫ですか!今解毒のポーションを」


ラーファは自分のポーチを開け取り出そうとするが、焦りによりなかなか取り出せないでいた。




やっと取り出せた!そう思うと同時にキールの声が聞こえなくなった。




「・・・キール、殿?」




そこにあったのは、脚が二本地面に立っていて、胴体から上は溶けてなくなった何かであった。




「キィールどのおおおおぉぉぉ!」


ラーファは力の限り叫んだ返事がないであろう事は予想がついていた。しかし叫ばずにはいられなかった。




「貴様あああぁぁぁ、精霊の扉を開き、泥を巻き起こせ!風の渦ウィンド・ストーム」


ラーファの魔法は、地面をえぐり、ぬかるんでいた泥を空中に舞わせた。




「そこか!!精霊の扉を開き、彼の者を切り裂け!風の刃ウィンド・カッター!」


泥がジャイアントヘルフロッグに付着しそのおかげで居場所が特定できた。「搦め手」というキールの言葉をしっかりと刻んでいたのだった。




「グルアァ・・・」


短い断末魔とともに、ジャイアントヘルフロッグは真っ二つになった。




「キール殿」


舞い散る血しぶきの中、ラーファは独り呟いた。






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