藍
「なるほど、そういうことだったのか」
太陽が真上に昇る頃、キールからの謎はついに解かれた。
「ホワイトホーンラビットが肥えていた原因は、藍の悪魔『快楽の悪魔』だと思われる。この悪魔は理性を薄れさせ、本能を刺激する。それだけでなく特徴として恐怖という感情をなくす」
「その線が一番強いだろうな、ホワイトホーンラビットの生態に関するモノを見ても、やはり太っていることは今まで確認されてないようだ」
「うむ、それにしても角がおまけか、高値で売れる角ばかりを見ているのではなく、生態系を意識しているとはさすがだな」
ところかわって配達会社グリフォンフライ
「今日も出勤して偉いね、おれ!」
「社長はもっと働いてください」
自分で自分を褒めていると、すぐ横を大量の書類を抱えながら歩いていたエリーナに怒られた。
ところでそんなに大量の書類はどうしたんだろう。
自分の会社を貶めるつもりはないが、この会社は大きな案件を数少なくといった感じだ。
「どうしたの?その大量の書類は」
社員のご機嫌取りも、僕の大事な仕事だからね。特にエリーナがいなければこの会社は回らない。声をかけてあげることが大事なのだ。
「社長がまた邪神教について調べていたからでしょう。各ギルドから状況説明と情報提供を求められているんですよ」
・・・あれえ?そんなことしてないよ。また俺の知らないところで俺が動いているようだ。
「なんか、ごめん」
そんな事実無いから、無駄に働かせてるみたいで申し訳ない。
「いえ、ユリさんが昨日帰ってきてから、すごい剣幕だったので、それほどのことなのでしょう」
どれほどのことなのでしょうか。
キールはぐっとその言葉を飲み込み、ニコニコしていた。
数日後、西の門に冒険者たちが集まっていた。
「ここに集まったのは、各ギルドの斥候を得意とするメンバーだ。想定される敵は藍の悪魔『快楽の悪魔』である。それぞれが探索してなにか痕跡を見つけたら、通信石で連絡してくれ、その他にも危険が訪れたら使ってくれて構わない。ここに居る全員と連絡がつくようになっている」
そうして、王都の西側の森に冒険者たちが分け入っていった。
「今のところ、普段と変わらないな。本当に何かあるのか」
「あんた、最近王都に来た冒険者か?」
「一ヶ月前くらいか、護衛以来でこっちに来たな」
「それじゃあ、知らないかもな。王都の脳と未来の所以を、俺もあいつの情報じゃなかったら、ここまで力入れて捜索しないな」
「その話詳しく聞きたいな」
会話をしながら探索を続けていると
「こちらBチーム、Bポイントから上に20分ほど北に行ったところで、モンスター同士の共食いを発見、集合して欲しい」
通信石から声が響いた。
そしてしばらくすると、各チームが、共食いの現場にたどり着いた。
「こりゃひでぇな」
さすがにベテランの冒険者ばかりで吐いてる者は居なかったが、新人や馴れていない者であれば、目をそらすことは必至であろう。
食欲を満たすためでなく、己の狩りの本能によりただただ殺しを楽しんでいた。そう分かるほどに、殺された後、食べられた痕跡がないのである。
「おそらく悪魔の魔法がかかって時間もまだ経っていないと思われる。ここを中心として捜索していこうと思う」
「すでに本部に連絡を取って、本部隊を送ってもらう手はずになっている。あまり奥深くまで行かなくても大丈夫だから慎重にたのむ」
遡ること数刻、配達会社グリフォンフライでは
「お、ユリはこれから仕事?」
「社長が発端でこっちに回ってきたんだよ」
ん?なんのことだろうか。また俺の知らないところで、俺が働いているんだろうな。なんか申し訳ないな。
手をポッケに突っ込むと、先日とれた角の欠片があることに気がついた。
そうだ、これは高価なものらしいし、これで機嫌をとってもらおう。
ニコニコ
「頑張ってるからね、これをあげるよ、いらなかったら全然捨てて良いよ」
「これからってときに、やっとヒントかよ。社長もっと早く言ってくれよ」
社長がニコニコしているときは何かが起こるときで、私たちを試しているってのはいつものお決まりなんだけど、今回ばかりはたまったもんじゃないよ。
ユリは新しい謎を抱えたまま、本部隊へと向かっていった。
「やっと本部隊が来たか」
「待たせたな、目星はついているのか?」
「ある程度はな」
「よし、それでは作戦を開始する。敵は藍の悪魔『快楽の悪魔』だ。そいつは、理性を失わせる攻撃を仕掛けてくる。だが、これは状態異常判定にならないため、回復薬が効かない、よって、理性を失いかけた者は気絶させてでも止めろ」
「ひとついいか」
「どうした、言ってみろ」
「さっき、社長に手渡されたものがあるんだが、それがこれ、ホワイトホーンラビットの角だ、よくわからないが、うちの社長がこれを渡したという事だけ全員頭に入れといてくれ」
「あいつめ・・いつも答えを教えてくれりゃいいのに。全員聞いたな、これのことで思いついたことがあったら、遠慮無く言ってくれ。それじゃあ、作戦開始だ!!」
こうして、本部隊は森の奥へ進んでいった。
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