配達屋はうまくいく!~何もしてないのに勘違いされて国の重要人物!?~
一色珊瑚
キール
赤い果実をつまみながら、本を読んでいた。
「悪魔召喚か、辞めといた方がいいよねぇ」
昼間の酒場で、まばらな客の中、男は椅子に一人ぐでんともたれ掛かりながらそう呟いた。
しばらくして男はヨシと言いながら本を閉じ、酒場をあとにした。
「あの酒場は人が少ないし、いつも静かで心地良いな」
一方、男が去ったあとの酒場では、先程とはうってかわって熱気がこもっていた。
「聞いたか、さっきの言葉」
「悪魔召喚だよな、間違いねぇ」
「遂に邪神教が動くってわけか、支度しないとな」
「俺はギルドに連絡してくる」
「おまえらも各ギルドで動くように」
ここはオルガノ王国の王都にある酒場『ゴールドラッシュ』
今この瞬間においては、各ギルドのこれからの方針を決める実質的な最高意志決定機関である。
酒場から出て帰路についていると、男が話しかけてきた。
「よおキール、今日もあの酒場に行ってたのか?」
「マグルか、そうだね。あそこは楽で良いんだ」
「楽ねぇ・・ま、そう言うのはお前ぐらいだよ」
「ん、よくわかんないけど、そっちはこれから狩りかな?」
「おう、近くの森でグレイトウルフが出たらしくてな」
グレイトウルフと言えば、グレイウルフの上位種だっけ。そう言えばさっきの本にでてきたな、実は似てるけど悪魔だったんだよね
「剣鬼と呼ばれるマグルなら大丈夫だと思うけど、悪魔に気をつけてね」
「おい、ちょっとまて、それどういうこ・・」
「じゃぁ、ちょっと急いでるから、バイバイ」
マグルは良い奴なんだけど、話が長くなるからね。退散するとしよう。
配達屋として鍛えた足でキールは素早く逃げた。
所変わって王都の周辺の森
紫のローブを着た人物と黒のローブを着た十数の人物が暗い部屋で話し合っていた。
「祭司様、最近冒険者たちの中で、我々のことが噂になっています。こんなこと言いたくありませんが、もしかしたら我々の中に裏切り者が・・・」
暗闇の中でざわめきが広がり、紫ローブを着た祭司とよばれる人物が口を開いた。
「静まりなさい、仲間を疑う必要はありません。我々は、境遇は違えど、同じ意志のもと集まった仲間です。」
祭司の言葉で、その場は落ち着きを取り戻した。
とはいえ、場所を移しても良いかもしれませんね、幸いにもここは森の奥深く、しばらくの猶予はあるでしょう。
そう思考を巡らしていると
「そこまでだ、邪神教!!!」
ドアが勢いよく開かれ、大勢の冒険者がなだれ込んできた。
「バカな、こんなに早く見つかるとは・・」
つい先ほど冒険者たちの中で噂になっていると耳にしたばかりで、ここまで迅速な行動は普段ならありえなかった。
「王都ギルド連盟から第三種緊急依頼が発行されてな、もうおしまいだよ、お前ら」
よく見れば、剣鬼マグルを筆頭に、その場には各ギルドの看板パーティーが集結していた。
「ふふふ、そのようですね、ですがこちらもこのままで終わるわけにはいきません。あなたたち、少し事を急ぎます。命を捧げなさい!!」
その言葉をかわぎりに黒のローブを着た数十人がナイフを取り出し、自らの心臓を刺し、そして祭司が紫色の丸い飴のような結晶を飲み込んだ。
「ふふ、ふは、ふはははは、残念です。まだ儀式としては未完成、完全な悪魔を召喚することが出来ないのがとても残念です。とはいえ、私の紫の悪魔は『眠りの悪魔』、これだけの実力者を永遠の眠りに閉じ込められるなら、本望。では、良い夢を『悪魔召喚・永遠ノ夢』」
すると黒いローブたちは灰になり、祭司を包み込んだ。
灰が収まるとそこには、2本の角が生えた二足歩行の獣が生まれた。
「Uroooooooooooooooooo」
耳が痛くなるほどの叫び声を上げながら、紫色の灰を辺り一面にまき散らした。
屋内と言うこともあってか、灰は部屋に充満し、悪魔は勝利を確信したかのように、ニヤリと口角を上げた。
「・・・おしまいだって言っただろ。第三種緊急依頼の意味分かってるのか?」
悪魔は上げた口角をゆっくりと下げ、灰で覆われた数歩先を睨み付けた。
「第三種緊急依頼ってのは、緊急依頼の中でも安全なもんなんだわ。なぜなら解決方法が分かっているからなんだけども。」
マグルは革袋から赤い木の実を取り出した。
「クコの実は、ここら辺ではあまり採れない果実だが、そのまま食べるとただの眠気覚ましだけど、錬金術の材料にもなる、そしてできあがったモノは強烈な気付けになる。最近とある配達会社が大量に仕入れていてな」
「相手が悪かったんだよ、第三種緊急依頼が出るときの情報元はだいたい、王都の脳と未来キールだからな」
その言葉と共に、冒険者たちが一斉に剣を振り上げ、攻撃しだした。
紫の悪魔は得意の眠り魔法が効かなければ、ただ少し力の強いモンスターであった。
翌日、配達会社グリフォンフライの社長室でキールはソファで横になっていた。
「失礼します」
ドアのノックが聞こえ、一瞬ビクッとしたが馴染みのある声に緊張をといた。
「どーぞー」
「失礼します。昨日はお疲れ様でした。またしても王都ギルド連盟から報告書を書いて欲しいと頼まれました。今回も私が書いておいたので目を通してもらえますか?こちらが書類になります。」
「ありがとね、毎回いやになっちゃうよね、何も関係ないのに」
「ご謙遜を」
「ところで社長交代するって話は・・・」
「何度も申し上げているとおり、辞退させていただきます。社長だからこそ社員はついてきているのです。」
花の都、王都は今日も平和であった。
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