第5話 パーティ登録完了! ダンジョン行きます!
「おっちゃん、唐揚げ棒一つ!」
「あいよっ!」
鶏肉を揚げる音。
それは、聴いた者を天国へと誘うジューシーな音だ。
食欲をそそる香ばしい匂い。
全てが完璧である。
少年はおじさんに数枚の硬貨を渡して、それと引き換えに唐揚げ棒を受け取った。
今は、昨日の一件から一晩空いた朝。
カーネルと待ち合わせをしている冒険者ギルドへと向かっている途中だ。
串に刺された五個の唐揚げのうち、一番上に位置するそれを口に入れる。
ザクっ、ジュワ〜。
「ん〜、ジューシ〜」
つい顔が綻んでしまう。不可抗力だ。
最近一番幸せな時間といったらまさにこの時間だろう。
歩き食いしてこその唐揚げ棒なのだ。
残り最後の唐揚げを口に入れようとしたその時──
「ッテメェ、きぃつけろや!」
強面で筋骨隆々とした男とすれ違いざまに肩をぶつけてしまい、唐揚げを落としてしまった。
「っす、すいません!」
思わず怖気付いてしまう。こんな自分は嫌だ。
男は舌打ち一つついて進み出した。
溢れるため息。
それは安堵からなのか、不快な気分からなのか。
しばらく歩くと、冒険者ギルドの扉の横で壁に背をもたれさせるオレンジ色の長髪を持つ少女の姿が見える。
「来たわね。行くわよ」
ルイスに気付いたカーネルは扉に手をかけた。
「あぁ」
扉の中には、いつものように朝から酔い潰れる冒険者たちの姿。
が、彼女が姿を表した途端空気が変わった。
彼女はそれらを無視して受付へと進んでいく。
「パーティ登録をしたいのだけれど」
「か、かしこまりました」
彼女の言葉に一瞬驚きを見せた受付の女性は、首を振っていつもの態度を取り繕った。
「メンバーはどちら様でしょうか」
「彼よ」
彼女はそう言って後ろの少年に視線を向けた。
瞬間、少年少女を除いた冒険者ギルド内全ての人間の顔が驚きに満ちた。
当然だろう。ここら辺ではかなり希少なBランク冒険者が、無能と蔑まれてきたEランク冒険者とパーティを組むなどと言い出すのだから。
「えっ? 彼ですか……? 彼はEランク冒険者ですよ……?」
「承知した上でここに来ているわ。それに──」
彼女は肩にかけていたミニバッグから不思議な色をしたかなり大きめの魔石を取り出すと、それを台の上に置いた。
「これは彼が倒した魔物の魔石よ。死体を見た限り危険度Bランクの
「っそ、そんなまさか──」
「──いい加減早くパーティを登録したいのだけれど」
彼女の口調が強くなる。
場の空気は重たいものだった。
「っす、すみませんでした。こちらにカーネル様と彼の情報を記してお渡しください」
受付の女性は慌てて台の下からパーティ登録用の用紙を出して彼女に渡した。
それから彼らはパーティ登録を済ませると、冒険者ギルド内の空いているテーブル席で一息つくことにした。
「早速魔物退治のクエストを受注したいのだけれど、大丈夫かしら?」
「あ、あぁ。うん。大丈夫だ」
カーネルはため息一つついてから、気になっていたことを尋ねた。
「なんか今日元気ないじゃない。何かあったの?」
「いや、別にいいんだ。大したことじゃない」
彼女はこれ以上は失礼だろうと考え、話を戻すことにした。
「そう、ならいいわ」
「わりぃな、心配させちって。本当馬鹿だなぁ、俺」
彼は吹っ切れたように笑った。
「別にそんなのじゃないわ。さ、クエストを受けられるなら何か探しましょう」
「おぅ!」
彼らはクエスト掲示板と睨めっこを続けた結果、ダンジョンに潜ることにした。
初めてのダンジョンは不安もあるが、ワクワクする。
──俺たちの冒険は、これから始まるのだ。
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